百物語2002  奥信州 旧佐々木邸より

このエントリーをはてなブックマークに追加
915松田洋二 ◆Zdi4.g/E
◆◆◆【 070/100 】◆◆◆
自分が住んでいるマンションの裏のベランダ側にちょうど林に囲まれた小高い
丘があって、今の季節、近所の子供や中高生がよく花火をしたりしている。

とある台風の過ぎ去った夜、外はさすがに誰もおらず静まりかえって、珍しく涼風
が吹いていたので、ベランダに出て木製の小型ベンチに腰掛けて涼んでいた。

いつの間にウトウトと寝てしまったのだろうか、涼しいのを通り越し、寒気を感じ
て目を覚ましてしまい、ちゃんとベッドで寝ようと部屋に戻ろうとした時、背後から
妙な音、ちょうどシャベルか何かで土を掘るようなザクッ、ザクッ、ザクッという物音
が聞こえてきた。時計を見るとちょうど夜中の3時過ぎで、こんな時間に何してんだ?
台風の大雨の影響で土砂崩れなんかの心配があるのに正気か? と、丘の上の
林の音のする方向をライト片手に双眼鏡で覗いてみた。するとそこには、ライトの
光に気付いたのか、必死で顔を隠そうとしている着物か浴衣のようなものを来た
女性らしき姿が見えた。その女性はシャベルと荷物らしきものを掴むと一目散に、
のたうち回るようにして林の奥の方に逃げこんでいった。

翌朝、散歩がてらに昨日の女性らしき人物がいた場所に行ってみると、そこには
黄色く変色した粉の塊のようなものと、古くボロボロになったゴミ袋の欠片みたいな
もの、そしてクレーンゲームの景品によくあるような小さな人形みたいなものが大量
に散乱してあった。 ゴミの不法投棄だったのかと納得して、そんな事も忘れたある
夜、バイトから帰ってきて自分の部屋のドアを見て身の毛がよだった。 ドアの手紙
入れがいっぱいになるくらいに、どす黒く汚れた、あの見覚えのある小さな人形が
歪な形で無理矢理詰め込んであった。

とてつもなく嫌な予感がした俺は、バイトをやめその週のうちに荷物をまとめて速攻
で遠くの実家に戻った。