百物語2002  奥信州 旧佐々木邸より

このエントリーをはてなブックマークに追加
629sutehan ◆sC34sK8s
◆◆◆【 41/100 】◆◆◆

 小さい頃の話なんだけど。
 俺のばあちゃんの家にはたくさんこけしがあって、
 とりあえず怖くは無かったんだけど、なんか不思議な気持ちだった。

 ある晩のこと、俺がばあちゃんの家で寝てたら階下から物音がして、
 そんで俺は下に降りてみたんだ。
 そしたらさ、ほとんど真っ暗で何も見えないような居間にさ、こけしが一つだけ置いてあったんだ。
 ばあちゃんとこの豆電球と、外の外灯の光が少しだけ見えてるような居間にさ。ぽつん、て。
 俺はあれ? とか思ったんだけど、眠いの半分だったからそのまま二階にもどって寝た。
 んでさ、またしばらくしたら木の音がしてさ、
 ばあちゃんち、板張りだからそういうのはよく聞こえるんだ。
 んでまた階下に降りていったらさ、さっきのこけしが動いてるんだよ、
 二階の階段のほうに。
 ばあちゃんの家にはばあちゃんとじいちゃんしかいないしさ、
 ふざけて動かすような奴なんかいないわけだよ。
 それで怖くなって、それでもこけし戻すの嫌だから二階に戻って扉閉めて、音とか聞こえないようにしてさ。
 布団かぶって寝たよ。

 しばらくして、ようやくうたたねしてきた頃かな、また聞こえてきたんだ。
 今度は止まんないんだよ。
 ガタッ、ガタッ、って、こけしが歩いてるみたいな感じでさ、近づいて来るんだよ。
 それで俺も本当にビビッて、布団から飛び起きてさ、部屋に入れないようにって、ずっと扉を抑えてた。
 ガタッ、ガタッ、つって、足音がさ、俺の部屋の前で止まったんだよ。
 鳥肌立ちまくりで震えてたけどさ、開けられる! とか本気で思ってて、必死になって扉抑えてた。

 そのまま朝になるまで待って扉開けたら、こけしなんて無くて、下に下りてってもこけしなんかどこにも無かった。
 そのこけしさ、笑ってる、っていうのかな、そんな表情のこけしだったんだけど、
 そんな表情のこけし、ばあちゃんちには一つも無かったんだよな……