その時である
ゴーッという大きな地鳴りがしたかと思うと
あたりが立っていられないほどグラグラと揺れ出した
皆思わず地面に這いつくばった
一分間ぐらいは揺れていただろうか…
ようやく揺れが収まってきた時迫田は先程の社務所の方に目をやって驚いた
半壊している!あそこには人もいたはずだ!
猟銃を持った男よりも避難誘導のほうが重要だと思った
「我々は警察だ!ここから避難しろ!」
と叫ぶ迫田に村人達はのろのろと従った
しばらくして村人たちがいなくなると
小さなかすれ声が聞こえてきた
どうやら社務所の下かららしい
この下敷きになったら…と思ったが
すぐに瓦礫の除去を始めると
初老の男性が現れた
どうやらこの男はもう永くはないようだ
口から血の混じったピンク色の泡を吹いていた
それでもどうにか搾り出したかすれ声は
笛を吹けというものだった
近くにいた警官の一人に警笛を吹くよう頼んだ
迫田はその意味がわからなかったが吹かせた
短くピッとしか吹かなかったが
それでも十分だったようだ
またしても揺れが来た
今度のはさっきよりも凄いかもしれないと思っていると
目の前の地面に亀裂が走った
亀裂は見る見るうちに広がっていった
何人かの村人はそこに飲み込まれていった
ようやく揺れが収まると社務所の瓦礫の除去を急がせた
再び漏れ聞こえてくる声の様子から
重傷者がいるに違いなかった
瓦礫をどけていた警官の一人山本は
何でこんな事をしなきゃならないんだと思っていた
だからこんな所に来るのは嫌だったんだなどと考えながら
梁のような大きな木をどかすと
そこには山本の死がこちらを見つめていた
「?」訝る山本に鬼様が飛びかかった
「うぉ!おわぁー!」と叫び声を挙げたが
次の瞬間鬼様の牙は山本の頭を噛み砕いていた
叫び声に気付いた迫田が振り返ると
そこには赤黒い物体がいて警官に襲い掛かっていた
そばにあった散弾銃をつかむと
続けざまに3発打ち込んだ
弾は跳ね返されたのかめり込んだのか
ほとんど効いていない様子であった
さらに撃ち込む迫田であったが
顔色は真っ青になり目には恐怖の色が浮かんでいた
紀夫は何やら騒がしいなと思っていた
大人数で話しているような声が聞こえていたし銃声も聞こえた
村には銃が一丁しかないのに何種類もの違う銃声が聞こえるのは
おかしいとは思っていた
そこに来て今度は大きな地震である
紀夫は生きた心地がしなかった
この社が壊れたらどうしようと思ったが
足がすくんで動けなかった
随分と永い揺れに感じた…
揺れが収まってみると辺りは何事もなかったかのようだった
とりあえずこの社に被害はないのだろうか?
紀夫は回って点検しておく事にした
驚いた事に一箇所だけをのぞいてはまったくといっていいほど被害がなかった
その一箇所というのもトイレの床が少し抜けているだけだった
ただその抜けた所を覗いてみると
そこが見えないほど深い穴のようだった
と、そこにまたしても地震が来た
穴を覗き込んでいた紀夫は生きた心地がしなかった
床は次々に抜け落ちていきトイレは大きな穴になってしまった
紀夫は穴の縁で腰を抜かしたようにへたり込んでしまった
またこんな大きな揺れがきては大変だと思い紀夫は外に出る事にした
社を出るとそこには大きな地割れが出来ており
大鳥居のほうまで続いているようだった
紀夫は途方にくれて座り込んでしまった
鬼様は手当たり次第に人間を襲っていった
警官たちは銃で抵抗を試みたが一切効果はなく
次々に腹の中に飲み込まれていった
あたりはまさに地獄絵図と化していた
迫田はまたしても逃げ出していた
行方不明者?捜索?もうどうでも良かった
急いで小さな鳥居を潜り抜けると車を移動して鳥居を塞がせた
これであいつはこちらには来られない筈だ
今度は大鳥居の方で何やら騒ぎが起きているようだった
黒っぽい物体が素早く動いているのが紀夫にも見えた
それがなんであるかは判らなかったが危険な物である事だけは確かだった
紀夫は慌ててあの小さな鳥居のほうに逃げ出した
地割れを避けて避難していた村人達もこれに気付いて
クモの子を散らすように方々に逃げ出した
だが長老の一人はその場にしゃがみこんで狂ったように叫んでいた
「御神ばしりじゃ!御神ばしりじゃ!地割れの上を神様がお走りになるぞ!」
紀夫はようやく鳥居にたどり着くとすぐにくぐりぬけようとした
だが何かつかえているのかいくらやっても向こう側に行けないのである
焦ってきた紀夫はそのつかえているものを無理やり押し出そうと
力いっぱい押したりゆすったりしていた
迫田は車がゆさゆさと揺れるのを見た
あいつが来た!
慌ててその場にいた警官に命令して車を押さえさせると
自分は散弾銃で鳥居の出口めがけて発砲した
紀夫はいきなり眼の前がパッと光るのを感じたが遅かった
強靭になった皮膚は弾を跳ね返してくれたが目は別だった
両目に何発もの散弾を喰らった紀夫は
もう何も見ることはできなかった
何時しかすっかり日も落ちて、あたりは真っ暗になっていた
村人の一人沖田 朗(55)はまだ野山を逃げ回っていた
時折聞こえる叫び声は大分減っていた
暗くなってきたからあの化け物にも俺たちが見つけにくいのかもしれないと思っていた
あたりはしんと静まり返って葉の揺れる音もない
これならもう大丈夫かもしれないと朗は思い始めていた
近くにあった切り株に腰掛けて
一服つけようとマッチを擦った
そこにはマッチの火に浮かび上がる鬼様が目の前にいた
音も、気配もさせずにどうやって…
そう思っている朗はにげようともせずあっという間に飲み込まれてしまった
これで村人も警官も一人残らずいなくなった
鬼様は苦しかった
産まれてこの方安らぎをあたうる事もなく
ただただ屍肉を喰らっていただけだった
それがどうしても我慢できなかった
だが外に出ようなどとは考えなかった
そういう考えは一切沸かなかった
ただただ肉を喰らい
そして憎悪を膨らませていった
ある日地面が揺れたかと思うと
まわりを囲んでいた壁が取り払われると
その憎悪は爆発した
今こそ復讐の時なのである
何故だかは判らなかったがそう思っていた
眼の前を蠢く者たちが異常なまでに鬱陶しく
襲い掛かると少し気が晴れた
喰らってやると快感が体中を走った
別に意識などあってもなくてもどちらでもいいのである
命乞いする者などもいたが感情におぼれることなく
ただ快楽のために、ただ自分を癒すためだけに
村人を襲った
だが朗を襲った後、鬼様は不思議な感覚にとらわれた
何かをしないといけないという義務感だった
心の中で「一つになるのだ」と念仏のように唱えながら
鬼様はゆっくりと鳥居を目指した
紀夫は社まで戻ってきたが
途中にあるあの知恵遅れの家は誰もいないようで、声をかけても返事がなかった
紀夫にはわからなかったが家の中は血だらけだった
もう紀夫しか残っていなかった
嫌な気配を感じて紀夫は振り返った
振り返っても何も見えはしないのだがそこには何かがいた
生暖かい息が顔にかかり
ヌメヌメとした肌が体に触れた
紀夫は恐怖のあまり後ずさった
そしてやにわに立ち上がると
転がるように外に出て
走り始めた
何度も転び何度も木にぶつかりながら紀夫は走った
出鱈目に走っていたがどうやらあの小さな鳥居のところに来ているようだった
もう一度鳥居をくぐろう、今度は大丈夫かもしれない
紀夫は再び鳥居をくぐろうと試みた
その頃にはもう迫田は引き上げていたが
大きな岩を鳥居の前に運ばせていた
これで鳥居は完全に塞がれており
あちらの世界との接点は断たれたのだった
紀夫はまた渾身の力を込めて押していたが
今度はぴくりとも動かなかった
またあいつが傍に来ているのを感じていた
もうどうでもよくなっていた
鬼様には選ぶ事が出来た
小さな鳥居から外界に出て行くことも可能だった
だが何故だかそうはしたくなかったので
紀夫を運んで社に戻った
紀夫にもなんとなく自分の役割がわかって来た
我々二人(?)は浄化の為にこの世に生まれたらしい
そうとわかると彼は鬼様に身をゆだねた
二人はあの深い穴の方へと向かった
大きな口を開けてそれは待っていた
よくよく聞いてみると底の方から呻き声のようなものが聞こえる
紀夫には全てがはっきりとわかった
そして二人は奈落の底へと落ちていくのだった… 了
一応解説を…
御神ばしりは御神渡りという諏訪湖で実際に見られる現象をヒントに得ています
湖が凍ったり解けたりするのを繰り返す事により起きるんだそうです
その亀裂が諏訪大社上社から下社にかけて走る事から
神様が諏訪の湖を渡られる、ということになったらしいです
封印された村の話は中国で飢饉の時に自分の子供を籠に入れて
暗闇の中村人同士で交換して食べたというお話から取りました
以上二つとも諸星大二郎の漫画がベースになっています
我ながら「嗚呼、パクリまくってるな」と思います…
次はまだ何を書くか決めていないのでしばらくお待ちください
7月位には書き始めたいと思っています
次回はなるべくオリジナルで頑張りたいですね
ではまたお会いしましょう
どうやらこの話も佳境に入ってきたみたいですね。
1000鳥さんがんがって!
その奈落の底にはいかなる光景が!?
ここも作ってほしいっす。
それとも読み手の想像に任せる作戦か?
>そして二人は奈落の底へと落ちていくのだった… 了
↑終わってますよ…
解説2
かつての悪行の為に封印され、無限のループを繰り返す村人
それから救われようと彼らの創りあげた‘鬼様’に望みを託すが
逆に陰惨な結末を迎えることになってしまう
そして結局は憎悪の塊でしかなかった鬼様は
扉の「鍵」にあたる紀夫とともに地獄に落ちて
人食いの遺伝子は断たれたのであった…というオチなんですが
ダメですか?
皆様、1000鳥はもうすっかり疲れ切ってしまって書けません。何卒お許し下さい。
気が安まることもなく御苦労、御心配をお掛け致し申しわけありません。
1000鳥は皆様の側で暮らしとうございました。
1000鳥遺書より
また7月にお会いしましょう
450 :
不気身なサダ:02/06/25 20:48
1000鳥さんお疲れ様でした、後編も楽しみにしています
お疲れさまでした!!いやあまさかこういう展開になるとは…
452 :
1000鳥 ◆M1A2R4VY :02/06/26 09:27
保守
1000鳥さん、変なとこにレスはいってすいません。
確かに >400 の後にカキコしたはずなんですが…
とにかくお疲れ様でした。とっても楽しませていただきました。
次回も楽しみにしています。
>>453 そうだったんですか
もう終わってるのに‘佳境’といわれたもんだから慌てました
でもそれはそれでオカルティックな現象ですよね
次回作は書き始めました
セッション9という現在公開中の映画の予告だけ見て
「あ、面白そう」と軽い気持ちで始めましたが多分全然違う話になってしまうと思います
セッション9見た方はお話聞かせてください
456 :
1000鳥 ◆M1A2R4VY :02/06/27 19:04
保守
最初から一気に読みました
死姦はちょっときしょかった
1000鳥さん乙カレー
いまさらながら
【裏返し】
458 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/06/27 20:33
昨日、小学生の娘が「TOKIOのTV番組で、みんなで畑を作ったりしてる
村の名前、なんていったっけ?」と聞いてきたので
杉沢村と答えておいたのですが、違いましたでしょうか?
459 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/06/27 22:13
今日一気に読みました。
カナリオモロイ
新作期待。。。
462 :
1000鳥 ◆M1A2R4VY :02/06/28 07:49
>>457 かわいそうな1の姿も見ていただけましたか?
屍姦は書いてる本人もかなりきつかったです
吐きそうでした…裏返し
>>458 残念ながらそれはガチソコ村です
野菜の他にもDQNボクサーとか洗脳ラーメソマソとか造ってマス
>>459 ただ今鋭意準備中ですんでしばらくお待ちください
個人的にはエロ小説にしたかったんですが半角板でやれと満潮に怒られました
>>460 イメージしていたのはまさにこんな所です
特に1番上の左から1枚目、奥の方に小さな青い鳥居が…
463 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/06/29 00:30
1000鳥age
464 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/06/29 10:40
>個人的にはエロ小説に…
各種エロ板でも、よく妄想小説書く人いますけど
いざ書くと、すぐネタ切れして続かないんですよねー。
その点、1000鳥さんの話は最後まで読めて良かったです。
次回作も期待してます。
>466 =1000とりさん
A評価おめでとうございます。
新作も楽しみに待ってます。
1000鳥さんマンセー!
次回作ごっつ楽しみにしております。
短文を投稿ってやり方が
読みやすくていい感じでした。
このスレすごいです。
夢中になって読んじゃいました。
次回作期待してるんで頑張ってください。
あ、ついでに裏返し。
470 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/06/30 11:53
>469
おまえ、あのスレから飛んで来ただろ!
「裏返し」すんのは止めれ!
471 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/06/30 12:21
すまん、裏返し。
472 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/06/30 12:43
部活の顧問の名前、杉沢・・・。
と、別にどうでもいいことを書いてみたり。
473 :
1000鳥:02/07/01 00:12
自宅からなんでトリップありませんが
保守のためにageておきます
さあでは始めましょう
S県K市の現在は空地になっているところに
1950年頃までは病院が建っていた
今回はそこにまつわる話を
少ししてみたいと思う
その病院は1898年に建てらた
レンガ造りで東京駅を設計した建築家辰野金吾が手がけた
地上3階地下1階建ての豪華な建物で
当時は見物人が出るほど立派なものであった
しかしその中身はというと精神病棟が主であり
現在でいうところの心神喪失状態で犯罪を犯したものも
時折収監される事があったようで
窓に鉄格子がはめてある病室も多くあった
このようなことがあったため
この病院は開業当時から色々な噂が絶えなかった
ここにその噂のうちのいくつかを
紹介してみよう
1.院長始めスタッフ全員が発狂している
2.俳優の誰某が通院している
3.臓器の売買が行われている
4.人体実験が行われている
これらのほかにも沢山の噂話が囁かれたが
一番信憑性を持って語られたのは2つ目の話で
まあゴシップが好きな人は昔から大勢いたので
無理からぬ事かもしれない
481 :
あなたのうしろに名無しさんが・・・:02/07/01 22:54
待ってました!ワクワク
ムネオハウスって知ってる
>>481 お待たせしました
大変です…100レス分ぐらいつまらないという理由で削りました
ぼちぼちいきます
1945年、終戦とともに病院は突然営業を停止した
というより職員や患者が誰もいなくなってしまった
このときにも色々な噂が飛び交いましたが真相はわからず
土地、建物は市に託されることになった
1949年、市はこの建物を市庁舎として利用する事を検討し始める
たびたび起こる地震にも耐え抜いている点や
病院自体の評判はともかく建物の美しさが市のイメージアップになるとの理由からであった
だが何しろ建設されてから50年も経っている建物だったので
きちんと調査をしてからという事になった
調査はO社に依頼された
辰野金吾の建築物に詳しく、よく似た構造の東京駅を改修した経験を持っていたので
彼らに白羽の矢があたった
依頼を受けたO社では早速調査チームを結成する
スタッフは最初は6人で後から応援が来る予定になっており
設計部から3人(豊田・高地・木戸)、施工部から2人(高崎・菅沼)、材料部から1人(太田)であった
調査が終了しだい改修に入る予定で調査期間は1ヶ月を予定していた
6人はすぐにK市に飛び調査を開始する
設計部の3人は建物全体の構造を調べるため、まずは地下から
材料部の太田は建物の材料のサンプル集めのため3階から
施工部の2人は1階からそれぞれ調査を開始した
おお。
前回は伝奇ホラー(でいいのかな?)でしたが
今回は正当派怪談のヨカン
1000鳥さん、楽しみにしていますよ!
わぁい始まった♪
待ってましたよ1000鳥さん
当方かなりのちきんですが楽しませていただきます。
>>489 本人もなんだかよくわからずに書いてます…
怪談なのかテクノスリラーなのか方向性がいまいち見えません(スマソ
>>490-491 楽しみにしていてくれた方がいてくれたというだけでも嬉しいです
当方もかなりのチキンです
その昔‘セブン’を劇場で見て激しく鬱になりました
3階に向かった太田は一つ一つ病室を見て廻る事にした
レンガの質は良いようだし、どうせ研究所に材料を持ち帰るだけだから
大して時間もかからずに仕事は終わってしまうのだ
まずは一番奥の病室に足を踏み入れてみた
病室には窓に鉄格子がしっかりとはまっており
簡単なトイレも備え付けてあった
ベッドもそのまま置いてあったが生活感はまるで感じられず
まるで刑務所の独房のようであった
3階には同じような部屋が25と、ナースステーション(だったと思われるところ)があり
そのほとんどが荒らされることも無くそのままの状態で残っていた
鉄格子がある以外は普通の病院と大して変わらず
精神病院といってもこんなものか…といった印象しかなかった
1階に行っている施工部の2人も大体同じような様子だった
診察室があり検査室があり…普通の病院とそう変わりはなかったが2点違う所もあった
1つは待合室の無い事だがこれは入院患者ばかりだったことを考えると
そうおかしい事ではないのかもしれない
もう一つは手術室である
手術台があり無影灯があり設備自体はそう変わらないが
なぜか簡単に移動できるようになっていた
そして何より違ったのはその壁である
リアルタイムではじめてみたが
早く続きが見たい!
一気に読むほうがいいのか・・・
でも気になって見てしまうだろうなぁ
1000鳥さんがんがってくり〜
>>491 もしやオカ板にずっといるとか?
ではそんなあなたの為にストックを放出しましょう
…最近円谷幸吉の気持ちが少し判ってきたような気が…
廊下側の壁は分厚くしっかりとしたコンクリートで固められており
入り口から入って左右の壁には無数の小さな穴があいていた
そして廊下側の壁と相対する壁一面に大きな鏡が取り付けてあり
部屋全体を映し出していた