ある日の昼飯時。
同僚の3人で雑談をしているときに、同僚の一人Aが
「昨日変な電話かかってきてさ」と話し始めた。
「なんか広い空間みたいなところからみたいでさ、
うめき声だかノイズだかが低い音で飛び交ってるのよ。
で、しばらく聞いてたらいきなりボソッと
『全身が焦げる』
て囁かれて、そこで電話が切れたんだよな」
その場はタチの悪いイタズラ電話だろ、てことで片付け、
昼休みも終わり、俺たちは仕事に戻った。
それから2週間後。
出勤すると、いつも早く来るAが珍しく朝礼にいなかった。
遅刻か?と思ってたら、
「え〜、残念なお知らせです。
A君の家が昨晩火事になり、逃げ遅れたA君は…」
その後は聞くまでも無かった。
Aの通夜の帰り道。
俺はBの運転する車の助手席にいた。
後部座席にはCが乗った。
「俺さ、チラッとAの親戚が話してるの聞いたんだけどさ」
しばらく無言で運転してたBが、おもむろに口を開いた。
「Aの遺体、見せてもらえなかっただろ?
何でも、全身真っ黒に焼け焦げて炭化したような
状態だったらしいぞ」
何と返していいか分からずにいると、Bは
「…なあ、Aの話した電話の話…憶えてるか?」
ハンドルを持つ手がかすかに震えているのが見て取れた。
「あいつ言ってたよな、『全身が焦げる』て囁かれたって…」
背筋にゾッとしたものが走った。
確かにAはそう囁かれた。
じゃあ、あの声は……
しかし、Bの声で思考が遮られた。
「俺のところにも、一昨日、かかってきたんだ…」
「『水の上に浮かぶ』て…」
Bは、これで夏の楽しみが大幅に減ったな、と冗談めかした後
気を付けるよ、と言い、その場は別れた。
次の日、休日だったこともあり、Bの住むアパートに行ってみると
Bの部屋の前に人だかりが…
胸騒ぎを覚え駆けつけてみると、住民が口々に
「心臓麻痺ですって」
「可哀想にねぇ、まだ若いのに」
「何でも湯船に浮かんでたって話よ」
「見つけた彼女もショックよねぇ……」
どれ位その場に立ち尽くしていたか分からない。
ただ頭の中で同じ言葉がリフレインしていた。
水の上に浮かぶ
水の上に浮かぶ
水の上に浮かぶ………
Cが無断欠勤したのはその5日後だった。
上司の指示で彼の家を訪ねると、部屋の隅でCがうずくまっていた。
「どうしたんだよ、勝手に会社休んで。課長カンカンだぞ」
Cはそれには答えず、震えながら一言
「……来たんだ、俺のところにも…………」
Cのところに来たのは「操り人形になる」という内容だったそうだ。
操り人形……全くわけが分からない。
が、わけが分からないからこそ恐怖が大きく、
Cは外に出ることも出来ずに引き篭もるしかなくなったのだという。
俺はCの家を後にした。
上司になんて説明したらいいんだ……
そう思いながら会社へと戻った。
話はこれで終わりである。
今のところ、俺のところには妙な電話は掛かってこない。
が、いずれ掛かってくることだろう。
何故なら、BにしろCにしろ、Aの話を聞いた後に電話が来たのだから…
そして俺も、話を聞いているのだから……
Cはその1週間後、自宅の階段から落ちて亡くなった。
首や手足が折れ曲がり、まるで
糸の切れた操り人形のような格好で死んでいたらしい。
俺のところには、どんな内容の電話が掛かってくるのだろう…?