【恐怖】 一行リレー恐怖小説@オカ板

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そのぬかりなさが仇になろうとは、今の田代は気づく由もなかった。
西日が少し強くなってきた頃、ついに田代はユニバの門をくぐった。
チケットを値切るという強気な態度も軽く流されはしたが…。
なけなしの手持ち金から5500円を支払い
「待ってろよ、あきお」燃える闘志を内に秘め、田代は力強く歩を進めていった。
ちょうどスヌーピーエリアにさしかかった時、ペアルックを完璧に着こなしたカップルが声をかけてきた。
「あ、田代やん。何してんの?」
「いや、ちょっと人探しをね。つーか、見てないよね?和田あきお」
「あ、見たよ」「まじ?いつ?どこで?」
「さっき。ウォーターワールドの開演待ちしてたんちゃうかな。並んでたし」
田代は、闘志に拍車がかかりそうな己の感情をグっとこらえ
「サンクス!」クールに決めこんだ。
「別にええねんけど。はよ行き!次多分、最終公演やで」
カップルが声を揃えて言う。
「アディオス!」田代は軽快に走り出した。
ビデオカメラをしまいながら。
「あのカップル姉ちゃん、いい食い込み方してたな
 ペアルックっていう部分はいただけないが、それを差し引いても
 あの食い込み方は十分合格点だ」
どうも田代は、採点者としての能力も開花してきたらしい。
「ウォーターワールド、まもなく開演でーす!観覧する方はお急ぎくださーい!」
遠くからそんな声が聞こえた。
「あ!あそこだ!」
なんとか敷地内に入ったのはいいが、ショーステージまで結構距離があったらしく
観客席に着いた時はすでにショーは始まっていた。
一瞬ショーに気をとられそうになる田代。
「すげえな」
ちょうどヒール役の一人がジェットに乗って、水しぶきとはいえないくらいの大量水を
観客席に向けて飛ばしている場面だった。
「いいぞおっさん!もっとやってくれ!!」
どこかで聞いた事のある、野太い声がした。
俺はある場所を凝視した。奴は絶対あそこにしか座らないはず!
奴が一番似合う場所。…そうセンター最前列。
「…やっぱり」後部から見ても一目で分かる山のごとしの体格、そして髪型。
俺は他の客の邪魔にならないよう、すばやく下へ降りた。
「おい」俺はありったけの男気を前面に出し、あきおに声をかけた。
無言で振り向いたあきおの目は完全にすわっていた。
酒を飲んでる・・・
あきおの横にはクーラーボックス(大)が置かれていた。
こいつ、酒を持参したな・・・
そして、あきおの見事に開脚された隙間からは、俺の目鼻を刺激したものと
非常に類似したパンティーが、逆セクハラでもするかのように
ばっちり顔を覗かせていた。
「この野郎…!」俺は激しく憤慨しそうだった。
けれどもあきおは、そんな俺などお構いなしにショーとの一体感を味わおうとしている。
「おっさん!もっと勢いよくやってくれよ!!頼む!もっとすごいのを!!
 もっとすごい水を頼むよおっさん!!!」
「そういうお前が一番おっさんだよ」 そう突っ込みたい気持ちをこらえた瞬間、
俺は怒りがクールダウンしていくのに気づいた。
『 酔っている、もしくは薬でとんでいる奴を犯っても何の勲章にもなり得ない 』
この考えは、田代にとっての美学であった。
そうだ、帰ろう。あの2人のもとへ…。
俺はこれ以上罪を犯してはいけないんだ。
今ならまだやり直せる。
田代はロケットペンダントをギュっと握りしめた。
「素晴らしいショーを心ゆくまで堪能しろよ?あきお…」
田代はそう呟くと、あきおの鍛えぬかれた肩筋にそっと手をかけ、その場を去った。
よし、急ごう!あの2人を早く抱きしめてあげなくては!!
そう思い、駆け出そうとしたその時
「田代まさしさんですね?」 背後から声がした。
振り向く田代。瞬時に囲まれる田代。
「田代さん、あなたが盗撮していたという通報がありましてね。ちょっと荷物、見せて頂けますか?」
田代の心臓ははちきれそうだった。
部下らしき男がすばやく田代のハルマゲバックを取り上げる。
「先輩、ビデオカメラです」
「うむ」一番最初に声をかけてきた先輩らしき男はそう言うと
それを受け取り、慣れた手つきで中身のチェックを始めた。
「ほほぅ」先輩らしき男は、一言そう発すると
ビデオカメラの映像を、少し後ろに控えていた女に見せた。
「これはあなたですね?」先輩らしき男が尋ねる。
「はい。間違いなく私です」女がうつむき加減にそう答える。
その横には、俺を鋭い眼差しで睨みつける男が立っていた。
「俺が通報したんだよ」男はぽつりと言った。
その男女は…そう、スヌーピーエリアで遭遇したペアルックだった。
「俺、見たんだよ。お前が嬉しそうにビデオカメラをバックにしまうとこ。
 そしたら他の客が教えてくれさ。さっきの男、彼女のスカートの中撮ってたよって。
 マーシーは改心したんじゃねーのかよ!!どーなんだよおい!!!」
ペアルックの彼が激しく田代を責め立てる。
俺は返す言葉が見つけられずにいた。
「じゃ、詳しい事は署で」先輩らしき男が田代の腕に手をかけた。
「待ってください…」 田代が遠い目をして言った。
「ペアルックの彼、ほんとマジごめんな。俺、自分が分からなくなってたんだ。
 自分の居場所も、そして自分の存在意味さえも。ようやくそれに気づいたと
 思ったらこれだもんな。やっぱ神は見てるんだね」
984あなたのうしろに名無しさんが・・・:01/12/24 06:59
俺はもう行く事にするよ。何処へって?そう1000を取りにさ。
さらに田代は続けた。
「警察の方にお願いがあります。俺、やり残したことが2つあるんです。
 それまで、おれを引っ張っていくのは待ってもらえませんか?
 絶対逃げたりしません。もう覚悟は出来ましたから…」 少し泣いているようだ。
「あと、1000をとるのはもうちょっと待ってくれ。
 俺の夢を見守っててくれ。頼む」
田代は哀願した。
「分かった。じゃあ30分だけやろう。部下を1人つけるが、いいか?」
同じ男としての精一杯の男気、先輩警官は見せてくれた。
「恩にきります…!約束必ず守ります」
そう言うと田代は、部下警官を背後につけ、まっしぐらとある場所へ向った。
7,8分ほど歩いただろうか。 田代が歩を止めた。
「良かったら、一緒に乗ってください」部下警官に言う。
「なるほど…」部下警官は何かを察した。
「いいですよ。僕で良ければ喜んで」
2人はある場所の内部へと少し駆け足気味に入っていった。
田代は今までの事を走馬灯のように思い返していた。
「ホント、色々あったなぁ。俺、やっぱ実刑なのかなぁ。
 あきおはまだウォーターワールド見てんのかなぁ…」
そんな事を考えてるうち、気づけば2人は列の最前にいた。
「なんか、ドキドキしますね」部下警官は目が輝いている。
「そうですね」正直、俺もドキドキしている。
そうこうしているうちに、すぐ出番はやってきた。
「いってらっしゃ〜い!!」元気な女子バイト員らしき子の声も
もう俺の耳には届かない勢いだった。
「うわ〜い!すごい!!本当に夜空に浮いてる感じ!!!」
部下警官は精神年齢を一気に下げてきた。
「ははは」一応愛想を振りまいてみる田代。
そして2人を乗せた自転車はとうとうアイツと遭遇する事となる。

「あ!!E・Tだ!!指と指ぃ〜♪僕の指と合わせてぇ〜!!!」
部下警官は立ちこぎしていた。
田代も一瞬立ちこぎしそうになったが、すぐに気を引き締める。
「まだだ。落ち着け、俺。あともう少しの我慢だ」

と、その時。
「バイバ〜イ、マサスィー」
聞こえた。
確かに聞こえた。
田代の耳に、そのセリフはどう聞こえたのであろうか。

部下警官が言う。
「いやぁ〜羨ましいな。僕は呼んでもらえませんでしたよ」
彼はうっすらと汗をかいているようだ。
「…田代さん?」

田代は泣いていた。
「俺、生きてて良かった。本当に良かった。小さい頃ね、E・Tに会いたくて
 夜になると自転車にまたがってさ。時々E〜T〜来てよ〜!!なんて叫んだりしてさ。
 近所から苦情なんかきたりして。でもね、俺ずっと信じてた。俺の友達はアイツだけだって…。
 やっと会えた…。本当にもう思い残す事はないって感じ。
 これで綺麗な心で取り調べに向かう事ができるよ。付き合ってくれてありがとう」
「うまく言えないけど、その気持ち大切にして下さい。
 それに…ね、すぐまた会えますって!!」部下警官の精一杯のエールだった。
「本当にありがとう。じゃ、行きましょうか」
田代はロケットペンダントにキスをした後、そう部下警官を促した。
ラ〜ンナウェ〜イ…小さく呟きながらゆっくりと歩き出す田代。
「あ、そういえばやり残した事が2つあるって言ってましたよね?もう1つ、まだ達成されてないんじゃ…」
部下警官がちょっと心配そうに田代に尋ねた。
「いや、大丈V。もう達成されたも同じだよ。」田代が優しく笑う。
「え?!どういう意味…」
田代は続けた。
「誰かに1000をゲットしてもらいたかったんだ」
「なるほど!」
2人は微笑みを返し合いながら先輩警官のもとへとゆっくり、本当にゆっくりと歩を進めていった。

その2人の後ろ姿は、何十年来の親友と言ってもおかしくないくらい
しっくりきていた。

田代自身は気づいてるのか分からないが、彼は生きる理由を見つける事が出来たのだ。
愛する人のため、そして許し合えた友人のため。 そしてあきおのため…。

おめでとう、田代!!

                                         Fin.
1000あなたのうしろに名無しさんが・・・:01/12/24 08:05
1000
たしかにいただきました
ありがとう
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このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。