どうでも良い話だけど、出張の途中に
酔った30代男と夜汽車で乗り合わせたことがある。
そいつは片手に一升瓶、片手にカタログらしき書類満載の紙袋を持ち
特に女性客に相手かまわず絡んでいた。
女性以外にも訳の解らんことを話かけてたが、乗客は皆関わりになら
ないようにスルーしてた。
痩身でくたびれた営業マンみたいな風情、顔は汗と脂でテカってた。
カタログらしきものを見せながら近くの席の女性客の肩に触れて大声
で何やら話しかけてた時、ついに女性が「助けてください」と言った
ので、俺はつい「いい加減にしなさいよ」と注意してしまった。
男は薄ら笑いを浮かべながら近づいて来て、四人掛けの対面座席の
斜め向かいに座った。
片手の一升瓶の首を持ち、何時でも殴れるような感じで揺らしてた。
この時初めて、そいつの拳の関節に赤黒い、所謂空手ダコがあること
に気付いた。
こりゃマズイことになったと後悔したが、覚悟を決め、そい
つの目を見つめながら腰をずらして正対した。
そいつの動きが止まって笑いが消えた。
そいつが瓶を振り上げたらすぐそいつの懐に組み着く積もりで座った
まま間合いを詰め、かなり長い間睨み合ってたと思う。
男がやがて、立ち上がったので俺も合わせて立ち上がったが、男は
そのまま別の車両に去って行った。
京都から岡山に向かう夜汽車だったと思う。