ナイーブな俺を泣かせる感動話を持ってきてくれ

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350 ◆1hBIdwrLSs
俺は運動も勉強も人並み、特別活発というわけでもなく本当に普通の男。
そんな俺の家の近くに1人の女の子が住んでいた。
その子は大人しく目立たない子だった。
家は近所だったが特別親しいというわけでもなかった。
その子とは小、中学校はもちろんのこと、高校も偶然同じ学校。
同じクラスにもなったことはあったが話をしたのは数回だけだった。
なのでそれほど意識することもなく卒業。
俺は大学に通うために家を出て下宿することになった。
その子の事なんて気にも止めなかった。
351 ◆1hBIdwrLSs :2005/12/28(水) 12:19:14 ID:???
大学生の間はバイト、サークル、勉強と本当に忙しかった。
実家に帰る余裕はなく、正月やお盆に数回帰っただけ。
地元での就職が決まった俺は、やっと実家に戻った。
4年という時間は、俺にしてみれば短かったが両親には長く感じられたらしい。
家に戻ってまずほっとしたのが何も変わっていなかったことだ。
俺は近所をぶらつくことにした。
やっぱり地方の田舎は4年じゃ何も変わらないらしい。
家に帰ろうと帰路についたとき、後ろから声をかけられた。
俺の知らない女性だった。でも相手は俺のことをよく知っているようだった。
まさかと思い聞いてみるとあの子だった。
見違えるほどに変わっていた。
周りが全然変わっていなかっただけにすごく印象的だった。
前の面影は、ほとんどといっていいほどなし。
明るく活発そうな可愛い子になっていた。
でも、この変わりようにはびっくりした。
俺が変わったね、ちょっと痩せたのかな?って言うとその子は「私に会った子はみんなそう言うよ。」って笑った。
その笑顔がまた可愛い。
俺たちはこれを機会に連絡を取り合うようになった。
352 ◆1hBIdwrLSs :2005/12/28(水) 12:20:17 ID:???
彼女は本当に変わっていた。
何をするにも積極的で何をしても楽しんでいた。
その時を精一杯に楽しんでいるように。
その姿は一緒に居るこちらまで楽しくさせるものだった。
でも、俺は相変わらず何が彼女をここまで変えたのか気になっていた。
そんな中で俺は、いつしか彼女に恋をしていた。
一緒にいても本当に飽きない。
彼女の笑顔が本当に暖かい。
俺は、今までの時間を埋めるかのように彼女と会った。
彼女もそれに答えてくれた。
辛い生活の中で本当に幸せになれた。

連絡を取り合うようになって三ヶ月が過ぎた頃。
ほとんどつき合っているような関係だったが正式な告白はしていない。
俺は、そんなもどかしい関係は嫌だったので思い切って告白をした。
俺は正直、交際を断られるわけがないと思っていた。
これは俺の傲りだったのかもしれないが、そう思わせるだけの三ヶ月だった。
俺の告白を聞いて彼女は笑った。
でも、急にかなしそうな顔になって一言だけ「ごめんね・・・・・・。」と。
最初、それを聞いたとき、俺は棒立ちした。
彼女は、友達としてずっといたかったらしい。
好きな人がいるのか?と聞くと「もちろん!」と、また明るく笑う。
俺はそいつに嫉妬するよりも先に羨ましいと思った。
彼女の笑顔をこれからもずっと見ていられるなんてな。
353 ◆1hBIdwrLSs :2005/12/28(水) 12:21:14 ID:???
彼女にフラれてから少しの間、彼女とは会わなかった。
彼女からの連絡はあったがやっぱりすぐには振り切れなかった。
それと同時に、好きな男がいるのにどうしてそいつにアプローチしないんだろう?
そんな事を思っていた。
またそれから少しして、彼女と会うようになった。
彼女は告白する前と全く変わらない態度で接してくれたので元の関係に戻るのは容易かった。
でも、会えば会うほど彼女に対する思いが強まる。
俺は、彼女に会う回数を減らしていくことにした。
手に入れることの出来ない人と一緒にいることほど、辛く悲しいものは無かったのだから。

会う回数も減るに伴って、仕事・食う・寝るのつまらない生活に戻った。
その中で俺は前に思っていたことを思い切って彼女に聞いた。
「俺とばっかり遊んで本命の方は大丈夫なのか?」
彼女は笑いながら
「ずっと連絡取ってるし大丈夫だよ!でも最近、その回数も減っちゃったんだ。」
そんなことを言った。
「お前なら大丈夫だよ。相手もきっと、お前のことを好いてると思うぞ。」
「相手の気持ちはもう知ってるんだ。両思いなの。」
「なら、どうして?」
「あたしは、好きな人とつき合えないし結婚もできないんだ。」
そんな事を言った。
その時の俺には彼女の言っていることの意味がわかるはずもなく理由を聞いても
「ひみつ。」と笑ってお茶を濁す。
疑問をとくはずが更に深まっただけだった。
354 ◆1hBIdwrLSs :2005/12/28(水) 12:22:04 ID:???
それからちょっとたったある日、俺が仕事から疲れて帰ってくると母に彼女とのつき合いのことを聞かれた。
「あんた、あの子にあんまり無理させたらあかんよ?無理できない体なんだからね。」と。
俺よりも元気な彼女に何言ってるんだと反論。
母は「あんた長いことつき合ってるのに知らんの?あの子、白血病なんよ?あんたが帰ってくる前もずっと入退院を繰り返してたし・・・・・・。」
俺は絶句、頭は真っ白。だってそんなことを信じられるはずがない。だが母がこんな質の悪い冗談を言うとは思えない。
体調がすぐれなかったり気分が悪くても「今日あの日だから・・・・・・。」とずっと言っていた彼女。
今思えば思い当たる節はいくつもあった。
俺はすぐ彼女に連絡し、その事の確認をとった。

彼女は素直に認めた。
彼女の笑顔の後ろには大変な生活があった。
話をする彼女の姿は変わる前の彼女にそっくりだった。
大人しくもの静かな女の子。
でも、すぐ笑って明るく振る舞おうとする彼女の姿が本当に痛々しかった。
「病気のこと聞いて、すぐにではないけどそう長くはないって言われたとき、
このままでいいのかなって思った。だから、今を精一杯楽しく過ごすためには今まで自分じゃダメなんだって思ったの。」
彼女が変わった理由がやっとわかった。
でも、わかったとき、今までの笑顔の裏にこんな辛い事実があったんだと思うと本当に辛くなった。
「前に私が『あたしは、結婚できないんだ。好きな人ともつき合えないの』って言ったの覚えてるでしょ?わかってくれたかな?」と。
そういった彼女は目に涙を浮かべていた。
「近づけば近づくほど別れる時の辛さは重くなる。だからあたしの自分勝手で相手に辛い思いさせるのは嫌なんだ。」
彼女は変わったのではなかった。
本当の自分を押し殺していただけで・・・・・・ずっと1人で辛い思いに耐えていただけ。
俺は少しでも支えになれればなと思った。
「白血病って言っても今なら治療できるんだろ?安心しろよ、きっと大丈夫だよ。」
彼女は何も言わず泣きながら笑った。それをあの時の俺は安心してくれたと勝手に満足していた。
355のほほん名無しさん:2005/12/28(水) 12:40:38 ID:???
ちょっとして白血病の事について調べてみた。そして俺は愕然とした。
まだ確実な治療法が確立されていないこと・・・・・・。
治療する手だてはあるが容易に出来ることではないこと・・・・・・。
年間死亡者数の多さ・・・・・・。
症状を抑えるにしても、たくさんの薬を飲み、辛い副作用にも耐えなければならないこと・・・・・・。
俺は何も知らないくせに軽い励ましの言葉をかけた。
あの言葉が彼女にどんな辛い思いをさせたのだろうか。
入退院を繰り返す辛さ、一度症状が弱まってもまた再発する恐怖。
そんな中でも彼女は生きる事への意味を自ら見いだし、精一杯生きていたのに。
あの時の俺はどんなにちっぽけだったか。
俺はもう一度告白すると心に決めた。

俺は彼女にもう一度告白をした。
彼女はやっぱりだめって言ったが本当の理由が聞きたかった。
彼女が他の男の事が好きだなんて嘘できっと自分の体の事に負い目を感じているんだと思ってたから。
だから言ってやった。
「お前がもし、本当に別に好きな男がいるんなら俺は諦める。だけどもし自分の体のことでつき合うことを拒むのならそれはお門違いだ。俺はお前が突然いなくなっても悲しまない。俺は酷い男なんだ。」
彼女は唖然としていた。それから「物好きな人だね。」って笑った。
俺もそうかもって笑った。
「じゃぁ、悲しまないって約束してよね?」
もちろん約束した。そしたら彼女は笑った。
俺は彼女の本当の笑顔を見ることができた気がした。
356 ◆1hBIdwrLSs :2005/12/28(水) 12:41:15 ID:???

そんな彼女との幸せな時間を増やすには入院するしかなかった。
今までの、薬に依存した生活は彼女の身体に大きな負担をかけていた。
常につきまとう嘔吐感や食欲不振、虚脱感など辛いものばかりだった。
今まで、無茶な生活を送っていたため彼女の身体は予想以上に悪くなっていた。
辛い生活にある彼女のためにも、俺は毎日病院に通った。
いつも面会時間ぎりぎりまで居るので看護婦さんにも名前を覚えられて冷やかされたりした。
そんな事も全部嬉しかった。彼女と一緒の時間をすごせていると実感できたのだから。
毎日毎日くだらない話をした。そんな話を彼女は笑いながら聞いてくれる。
辛くても二人だけの時間を過ごすことができた。それで十分だった。

そんな時に彼女は少しの間、不安定な状態が続いた。
本当に辛い時期だった。
毎日薬の量が増える中、副作用も更に辛くなる。
そんな時も俺の前では笑っていてくれた。
辛かったら辛いって言ってもいいのに彼女は弱みを見せなかった。
357 ◆1hBIdwrLSs :2005/12/28(水) 12:42:08 ID:???
仕事中、急に携帯電話が鳴った。
病状が急変し、もう長くはないとのこと。
あの辛くも幸せな時間をこうも簡単に潰されるなんて本当に信じられなかった。
来るべき日の覚悟は、約束したあの日に出来ていたはずなのに・・・・・。
俺が病院についたとき、彼女はすこしだけ落ち着いたようだった。
彼女は自分自身のことをわかっているのか「あの約束守ってよね。」と言った。
俺はもちろんとうなずいた。
だけど、その後
「もっと一緒に話をしたいよ・・・・・・。」
「もっと一緒に遊びたいよ・・・・・。」
「もっと一緒に居たいよ・・・・・・。」
「まだ死にたくないよ、やりたいことたくさんあるよ・・・・・・。」
って泣きながら言うんだ。
それは彼女が初めて見せた弱みだった。
お前が死ぬわけ無いだろう?あんなに元気に笑っていたのに。
俺にない物をいっぱい持っていて、いつも俺の支えだったお前が。
"悲しまない、泣かない"なんて俺には本当に無理なお願いだよ。
彼女の手を握って上を向いた。下を向いたら涙がこぼれる。目をつぶれば涙がこぼれる。
彼女との最後の約束だから俺は頑張って守りたかった。
嗚咽を漏らしていた彼女は、しばらくして静かになった。
そして、心臓メーターが直線になりピーッと言う機械音。
それが・・・・・・合図。俺は涙が止まらなかった。
358 ◆1hBIdwrLSs :2005/12/28(水) 12:48:42 ID:???
本当は苦しいはずなのに俺が居る前ではずっと笑っていてくれた。
本当は俺が支えなきゃいけないのにその笑顔をみていつも安心していた俺。
俺は不甲斐ない男だ。支えてもらっていたのはいつも俺で。
何にも出来ずにただ一緒に居てあげられるしかできなくて。
成長しない俺。彼女の持っている強さを俺もほしかった。
彼女のいなくなった今更だが、彼女の強さを貰うよ。
あの声もあの笑顔も全部俺だけの思い出。
あの笑顔があるかぎりどんなに辛いことがあっても彼女のように明るく笑っていけるような気がするよ。

だから俺は、これからも笑って生きていける。
あなたの強さを後世に伝えていける。
彼女が居たから今の自分がある。
素敵な思い出を本当にありがとう。