おねえちゃんのはなし
おねえちゃんは内緒話が好き
学校から帰ってくるとこう言うの
「ねぇねぇ いいこと教えてあげよっか?」
そうしてわたしの耳に顔を寄せて
こしょこしょこしょと
色んな話をしてくれるんだ
きのうお母さんに内緒で買った「りぼん」ね
ベッドの下に隠したから後でこっそり見てもいいよ
となりの家のくみちゃんの好きなひとってね
うちのクラスのよしおか君なんだよ
いまね あけみちゃんと絵本描いてるんだ
出来上がったら見せてあげるね
おとうさんが金曜の夜ひとりでどこへ行くか知ってる?
かどの居酒屋さんなんだよ
わたしこのあいだ後付いて行ったんだ
それでね甘い玉子焼き食べさせてもらったの
その玉子焼きってね 大根おろしつけて食べるんだよ!
そんなたわいもない話ばかり
その後必ず神妙な顔をしておねえちゃんは言う
でもね これは内緒だからね
あんみちゃんはまだ小さいし
ひーちゃんはおとこのこだし
こんなことしゃべれるの
にるちゃんだけなんだから
おねえちゃんはわたしよりだいぶ年上で
その頃のわたしには
ずっと大人びてるように見えた
自分のお小遣いで漫画を買っちゃうおねえちゃんスゴイ!
絵本を描いてるなんて おねえちゃんスゴイ!
お父さんの秘密握っちゃうなんて おねえちゃんスゴイ!
わくわくしながらいつも聞いてた
でもなにより
そんなカッコイイおねえちゃんと
秘密が持てることがうれしかったんだよね
「わかってる?内緒だよ」
うんうん!ないしょね ないしょ!
先日実家に帰ってきた姉は妙にやつれていた
もともと身体の弱い姉は出産してからというもの
会うたび小さくなっていく
細い身体がいっそう細く
痛々しいくらい
それでも根が明るいから笑顔は絶やさない
さすが母親だなぁ
たまには愚痴くらい聞いてあげるよって言ったら
にやりと笑って
「愚痴喋らせたら明日の朝になっても止まないよ〜
だってうちのダンナってさぁ…
あ わかってる?これは内緒だからね!」
はいはい 内緒ね内緒
やっぱり幾つになっても姉との内緒話は楽しい
でもねお姉ちゃん
大事な事は話してくれないのね
みんなお姉ちゃんの身体心配してる
あまり無理しないで
できることがあったら何でも言って