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「坊ちゃんナショナリズム」 斎藤 学(精神科医):
診察室という穴蔵から見ていても、最近、ニート、フリー夕ーなどと呼ばれる
オヤジ青年(団塊ジュニア)たちの間に漂うナショナリズムみたいなものに
ぞっとさせられる。
ある三十歳の青年は千葉県から靖国神社まで徒歩で往復し、軍人だった
母方祖父の軍服などの遺品をあがめ、父母の市民的生活を批判している。
別の三十代前半オヤジの愛読書は『我が闘争』。 旧日本軍の制服を集めたり
モデルガン(エアガン?)を買ったりして同好の士と戦争ゴッコをしている。
二人とも韓国と中国が大嫌いだ。 彼ら二人は、親たちが困惑して私のところヘ
相談にきているのだが、この連中と自らを対人恐怖者と自己診断して治療に
やってくるような自己探索青年たちとは違う。 「政治オタク」系ニートはせっせと
投票にも行く。
もっと好きなのはサッカーの応援なので(決してプレーヤーにはならない)、
ワールドカップの乗りで「ニッポン、ニッポン」とやっているのかも知れない。
当然、自民党、特に小泉派の支持者である。 貧乏人のくせにホリエモンが好きだ。
衆院選で小泉氏が大勝利をおさめたことについては、こういう人々の支持を
集めたというところがあるのではないか。 こうした「坊ちゃんナショナリズム」の
潮流をなめない方がいい。 国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)も登場当時は
変わり者の貧乏人集団だった。
【東京新聞 2006.1.11】