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日曜8時の名無しさん:
第二十一話「真田幸村」(4)
「行ってきなされ、どうせ、戦さにはならん、北条の先鋒は真田。上杉の先鋒
が、ご家老ということを知れば、そうそう手出しはするまい。外交でかたをつ
けるつもりじゃろ」なかなか、戦局眼あるな、と感心する兼続。
海津城まで、急いで戻り、景勝に会う。「お館様、ご無事ですか」「わしの身
には、何もない。わが軍の陣容など、つぶさに記した書状を密使に送らせよう
としていたところ、検問にひっかかったのだ。高坂には、ろくな家臣が残って
おらんのう。そやつが、吐いた。わしを、殺す計画もあったらしい」景勝、続
けて「あまり、おおやけにしたくない。よく、意図がわからん、宛先は真田の
ようじゃ。それで、そなたに尋問してもらおうと思ったのじゃ」
ひきすえられた高坂源五郎、悪びれた様子もなく、兼続を、ねめすえる。
「なぜじゃ、そなたの父上には、われらは大恩がある。勝頼公ともども、われ
らを救ってくれた恩人じゃ。ゆえに、われらも、そのつもりで、そなたを遇す
るつもりじゃった」「真田に、何かふきこまれたのか」何も、こたえない高坂。
「それがしは、そなたにおうて、礼をいいたいと思うておったのじゃ、そなた
のことは、勝頼公からも聞かされておった」すると、突然「亡国の苦しみが、
そなたにわかるのか」と大音声で叫んだ。なんと、ものすごい開き直りに、景
勝謀殺のことで相当頭に来ていた兼続「どういう意味じゃ」と怒鳴り返す。
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日曜8時の名無しさん:2009/06/10(水) 22:45:00 ID:sVbLUzNs
第二十一話「真田幸村」(5)
「森長可が、海津城を撤退するとき、人質を連れていったことを知っておるか。
あいつは、人質をたてに、逃亡をはかったのじゃ。わしは、何度も息子を返し
てくれるように頼んだ。何度も何度もじゃ。安全は、命に代えて保証するから。
そして、松本で人質を解放する約束が整った。しかし、あいつは、その約束を
反故にして、わしの息子を槍で串刺しにして、殺したのじゃ。まだ、年端もい
かぬ幼子を。他の者の人質、千人ばかりおったが、みな殺された」高坂の目か
ら、涙が流れる。すこし紅く見える。これが、血涙というものか。
「森は、われらにとっても敵、一緒に戦えばよいではないか」「われらは、二
度と、誰の配下にもならん」「真田は、北条に下っておるではないか」
「真田殿が、北条に下っておるのは、一時の方便。いずれ、北条も、徳川も、
上杉も、この信濃から、たたき出す、遠大な計画をおもちじゃ」「それに乗っ
たのか、そなたは、真田にだまされておる。真田は自分のことしか、考えてお
らん」真田の本心は、そうだとしても力たらずじゃ、心の中でつぶやく兼続。
「なぜ、景勝公を謀殺しようとしたのじゃ」「わしは、武田崩れのとき、急に
こわくなって、沼津城から逃げた、新府城からも逃げた。海津城まで、逃げて
森が来たので、息子を人質に出して、へつらった。わしの父は、高坂弾正、兄
は、長篠でりっぱな最期をとげられた。それなのに、わしは、いくじなしの卑
怯者じゃ。景勝公を、討つことで、汚名を挽回しようと思うたのじゃ」「そな
たの一族、みな首をはねて真田に送る。言い残したことはないか。森には、い
ずれ天罰が下るじゃろうが、下らねば、われらが討つ、冥土でまっておれ」
「なぜじゃろう、北条勢四万がかかってきたとき、少しも怖くなかった。それ
なのに、なぜ、あのとき、逃げ出したのじゃろう、わしは沼津城で死ぬべきじ
ゃた。臆病風に吹かれて、逃げ出したため、汚名を残し、地獄を見た。沼津城
を捨てた後は、蛇足じゃった。はよう、殺せ」真田の奴、今日という今日は頭
にきた。調略するにも、人を選べ。こんな、武骨者に諜者がつとまるわけがな
い。しかも、景勝公謀殺の嫌疑ということであれば、助けようもない。ほかの
ことなら、高野山に登らせることもできたのに。絶対に許さん。真田を滅ぼす。