611 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
三谷幸喜のありふれた生活229
「局長、副長、涙で撮影終える」
十月十日。新選組!の最終収録が行われた。ラストカットは香取慎吾演じる近藤勇のアップ。
既に山本耕史、藤原竜也らメーンキャストは前の週に収録を完了しており、
その日撮影があったのは隊士では局長だけ。収録が終わりに近づくにつれ、
スタジオには出番を終えた出演者たちが集まってきた。山本太郎、堺雅人、中村勘太郎、小林隆
そして伴組途中で死んでいったその他の隊士たち。
厳粛な雰囲気の中、時間差で懐かしい顔ぶれが続々と集まってくる様子は、なんだかお通夜みたいだった。
廊下に設置されたモニターの前で僕らは局長の「その時」を見守った。最後のシーンを撮り終え、
モニターチェックが済み、フロアーディレクターさんの「はい、OKです」の声を聞くや、
僕らはスタジオになだれ込んだ。セットの真ん中では、衣装を着けたままの香取慎吾が、ボーっと立っていた
テーマ曲が流れ、スタッフキャストの拍手が巻き起こる。くす玉が割れ、紙吹雪が舞った。
山本耕史が、局長の元へ駆け寄り、力強くだきしめた。その瞬間、局長の目から涙がこぼれ落ちた。
僕の知ってる香取慎吾は決して役と同化しないタイプの役者だった。
驚異的な集中力で本番は渾身の演技を見せるが現場を離れると、役のことは一切忘れる。
その彼が最終収録の前、昨日は眠れなかったと、そっと打ち明けてくれた。
この数日、近藤勇が自分から離れなかったそうだ。ドラマの中で彼は死を迎えるが
同時に自分も死んでしまうのではないか、そんな恐怖を感じたらしい。
幸い、収録が終わっても香取慎吾は生きていたが、
ふだんは意外と冷静でクールな彼が人前で涙を見せたのは意外だった。
一年にわたって、一人の人物を演じるということは、きっとそういうことなのだろう。
続きます
612 :
名無しさん@お腹いっぱい。:04/10/20 16:43:45 ID:BJp6eX/h
続きです
翌日、打ち上げが行われた。前の日香取慎吾は収録を終えた後に、隊士たちと朝まで飲み
その足で「笑っていいとも!」に出演。会が始まった時は疲労困憊だった。
隣には山本耕史がいて終始彼を気遣う。一年間苦労をともにしてきた二人は
プライベートでも局長と副長の間柄だった。
心身ともにグダグダの局長を支え続けた山本副長。
ところが一年を振り返るVTRがモニターに映し出されたとき、彼の中で何かがはじけたのだろう、
副長は突然泣き出した。人目もはばからずに。それも並みの泣き方ではなかった。
涙と鼻水で顔面がぐしゃぐしゃになり、挙句には「い、息が出来ない」と叫びながら副長はもだえ苦しんだ
いきなりふた回りくらい小さくなったその肩を、今度は香取慎吾が優しき抱きしめる。
ドラマのワンシーンを思い出した。山南さんが死んだとき、泣きじゃくる副長の肩に局長が手を回した
あの場面だ。ただし違っていたのは、局長の顔。彼は困ったように眉間に皺を寄せ、そして僕を見て
嬉しそうに微笑んだ。それは近藤勇の顔ではなかった。
あの茶目っ気たっぷりのカトリシンゴがそこにはいた。
読みにくくてすみません