>>948つづき
「NHKタイガースかいな」と、最初はタチの悪い冗談かと思っていました。ところが、翌98年、他球団に払う放送権料が軒並み横ばいだったにもかかわらず、
唯一タイガースのみが、前年の1億1470万円から一気に5億8720万円へと、4億円以上もアップします。それでこう思いました。
「ああ、会長は本気でタイガースを狙っとったんだな」
周知のとおり、巨人は日本テレビ、横浜はTBS、ヤクルトはフジテレビとそれぞれ関係が深く、放送権を通じて“接近”できる球団は限られていました。
セ・リーグで、それもホームタウンで熱狂的な人気を誇る阪神の試合は、衛星放送のコンテンツとしては、それなりに魅力があったのも確かです。
後日、東京のスポーツ報道センター勤務となった私は、当時の複数の担当者から、海老沢会長が「阪神はいくらなんだ」と、実際に買収を検討していたこと、
「公共放送なので、買うのは無理」だと担当者たちが説得して諦めさせたこと、そして「それならばBS放送権を獲得するように」との会長の指示を受けて、
タイガース主催試合(全65試合)を獲得すべく交渉を行ったが、在阪民放の強い抵抗があり、約半分の30試合のみを購入できたことなどを聞きました。
ちなみに、当時のBS放送の、プロ野球放送権料の相場は一試合200万円ほどです。このときNHKが阪神に支払った1試合あたりの単価はその7倍以上
の約1500万円。人気球団の試合とはいえ、その法外な金額に、私は海老沢会長の「力」を感じました。
私がスポーツの経理担当となった1998年以降も、阪神に注ぎ込む金額は増える一方でした。03年には実に9億8430万円もの放送権料が阪神にわたっています。
00年には、NHK側の担当として、阪神と契約を結ぶ席に私も同席しましたが、相手側の担当者に「これだけたくさん払うんですから、いい選手を取っ
てください。強くなってくださいね」という話をしたのを覚えています。
事実、潤沢な資金を得たタイガースは有名選手を次々に獲得し、放送権料がピークに達した03年には見事にセ・リーグ優勝を果たしています。
「タイガースは受信料で強くなった」
私たちの仲間内では、皆真面目にそう思っています。