鵜の目 匿名の悪意 (中沢佳子)
2002.05.29 朝刊 20頁 岐阜版 (全474字)
------------------------------------------------------------------------
【岐阜県】腹が立っている。ある少年に向けられた匿名の悪意に。
その少年詩人と支援者たちを取材したのは、半年ほど前。重い
脳障害を抱える十一歳の彼は、歩くことも、しゃべることもできない。
それでも、文字盤を指さして意思を伝え、詩を作り、本を出版。
各地で講演会に招かれ、多くの人の心を打った。その生活が四月末に、
あるテレビ番組で放映された。
それが、きっかけだった。
「『子どもがあんな詩を作る訳ない。母親が作っている』『変な
宗教やってる』なんて中傷がネット掲示板に…」と支援者たち。
被害は、支援者の個人ホームページにまで及んだ。「考えは自由。
でも、こういうのは汚い」「ゆがんでいる」
少年を信じろというのではない。表現の自由のうまみを吸って、
責任から逃げているのが、納得できないのだ。批判には根拠を添える
べきだし、考えに自信があれば名前を出してただせばいい。彼を批判
しても職や命を失う心配はない。匿名なのは、悪意だからではないか。
少年は今、講演活動を休止してひっそりと「悪意」に耐えている。
各地を回り、多くの人と“会話”するのが、数少ない楽しみの一つ
だったのに。
中日新聞社