[起承転々]奇跡を信じたい /岐阜
2002.06.29 地方版/岐阜 29頁 写図有 (全554字)
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「奇跡の詩人」として知られる脳障害児、日木流奈(ひきるな)君
(12)の一家を、昨年11月、大垣市で開かれた市民交流会で取材
した。
流奈君は文字盤を使って語る言葉を母親を通して参加者に伝えた。4
「自分を好きになれない」と悩む人に、「私なんて木の棒を1秒長く
握れただけで自分を天才と思ってほめちぎる。『一人よしよし』は
お薦めです」と、年齢からはとても想像できない回答で参加者を
驚かせた。
流奈君を巡ってはその後、テレビで紹介番組が放送されると、母親
との巧みな「会話」や大人顔負けの表現力を疑問視する声が上がる
など、波紋が広がっている。
私も取材当日、母子のスムーズな会話や流奈君の知性の高さが
信じられず、母親に「言葉遣いは彼の表現のままですか」などと、
失礼な質問をぶつけた。すると母親は「リハビリで大学生が読むような
難しい本をたくさん読み、多くの言葉を覚えた。すべて流奈の言葉
です」と断言した。
極小未熟児のため生後2週間で3度も手術を受け、身体機能や言語
能力に大きな障害を負った流奈君が、3歳からの厳しいリハビリを経て
習得した能力がどんなものか、私に検証する力はない。しかし、
流奈君の詩やエッセーを読んだり、たくましく生きる姿に接し、勇気や
感動を与えられた人々と共に、彼に起きた奇跡を信じたいと思う。<井上章>
毎日新聞社