祭り前夜(?)の静けさってことで、こんな記事でも読んで
ヒマつぶししてください。
1990年03月13日 週刊アエラ 065 00838文字
神戸の名士、佐本進さん自殺(先週今週・追悼)
佐本進さん(54)は神戸では名士の1人である。小児専門の歯科医の草分け的存在、
脳障害治療ドーマン法の普及者、自宅にミニシアターを作り、若い芸術家に開放する文化人と、
いくつもの顔を持っていた。2月28日朝、三宮の繁華街に歯科医院を開業しているビルから
飛び下り自殺した。
その前日、初診で虫歯治療に訪れた同市兵庫区北逆瀬川町1丁目、会社員臼井勝成さん(27)
の長男大介ちゃん(3)を治療中、死なせた。笑気麻酔をかけて間もなく容体が急変、県立こども
病院に運んだが、午後5時半すぎ、心不全で死亡した。
小児歯科専門医として開業して18年。大血管転位症など先天性の心臓病で、一昨年には2度の
手術をした大介ちゃんの既往症を母親の幸子さん(28)から聞いた上で、治療にかかったのだろうが、
幼い患者は帰らなかった。
佐本さんは、脳障害児治療法で注目された米国のグレグ・ドーマン博士に共鳴、日本事務所を86年に
開設。ドーマン法は、元騎手福永洋一さんのリハビリを指導したことから日本でも一般に知られ、治療を
受けたいという希望者が相次いだ。
若い芸術家の間で人気が高いミニホール「シアター・ポシェット」も、佐本さんが83年、異人館街に
ある自宅庭に自費でつくった。使用料が安いため、音楽、演劇など年間200回近い公演が行われてきた。
信望が厚いだけに、患者死亡のショックは大きかったようだ。当夜はふさぎこみ、翌朝はいつもより早く
自宅を出た。医院事務所で遺書5通を書き、手術用メスを持って屋上に上がった。左手首の血管と頚の動脈を
切ったが死に切れず、飛び下りたらしい。遺書には「事故の責任は私にあります。死んでおわびします」と
あった。
家族ぐるみの親交をもつ劇団神戸主宰の夏目俊二さん(63)は「患者の死という場面にはほとんど巡り
合わない歯科医、まして子どもが大好きだった佐本先生にとって、耐えられないことだったのでは。お世話に
なった先生のためにも追悼公演ができればと思っている」