581 名前:毎日新聞5/20東京本社朝刊12面 投稿日:02/05/20 09:06 ID:???
タイトル「NHKスペシャル 奇跡の詩人〜11歳脳障害児のメッセージ」
大見出し 波紋を追う
中見出し 局側「立証されないが事実」
中見出し 評論家ら「疑問抱かせる作り方」
小見出し 反響にプロデューサーが異例の説明
小見出し 納得いく説明、今後も必要
リード
4月28日夜放送の「NHKスペシャル 奇跡の詩人〜11歳脳障害児のメッセージ」が大きな反響を呼んだ。
「信じられない」という声も多く、NHKでは11日午後の「土曜スタジオパーク」に担当プロデューサーが
出演して、「科学的立証はされていないが事実」との趣旨の説明を行う異例の転回となった。「奇跡」とは、
「常識では理解出来ないような出来事」と辞書にはあるが、ドキュメンタリー番組としてこうした分野をど
う伝えるのか。波紋を追った。【荻野祥三・中島みゆき】
583 名前:毎日新聞5/20東京本社朝刊12面-2 投稿日:02/05/20 09:17 ID:???
(文字盤を指差している写真のキャプション)
議論を呼んでいる「奇跡の人」の1シーン。流奈くんの手(下)に母親が指を添え(上)、母親が持った
文字盤を指して詩作する。
(本文)
「奇跡の詩人」は、横浜市に住む脳に障害を持つ日木流奈(原文ルビ「ひきるな」)君が、米国のグレン
・ドーマン博士が開発したリハビリ・プログラム「ドーマン法」によって、文字盤を指して意思を伝える方
法を覚え、多くの本を読破し、詩やエッセーを執筆するよになる。そのメッセージが多くの人に感動を与え
ている……という内容。番組の視聴率は14%。通常のNHKスペシャルが10%前後なのとくらべて高かった。
2000件もの反響があり、約半分は批判的なものだった。
「土曜スタジオパーク」内での説明とともに、NHKはホームページで同番組について、「番組は、脳障害児
の能力を科学的に検証するものではなく、流奈君が発する感性豊かなメッセージを伝えることを意図した」
との見解を発表している。しかし、この姿勢が「説明不足」なものにしたと言える。
多くのドキュメンタリーやドラマを制作してきたテレビマンユニオンの今野勉・武蔵野美術大学教授は、
「ホーキング博士のような例もあり、『奇跡』が絶対ないとは言えないが、どういう奇跡であるのかを視聴
者に納得させる必要がある。ドキュメンタリーの作り手は、視聴者が抱くであろう疑問を予測して答えるべ
きなのに、疑問を最後まで抱かせた」と語る。
そして、「例えば本を2000冊読破したというが、6歳から11歳までに読んだとして一年に何冊になるか。
どうやって読むのか。そういうシーンも説明もない。そうした構成が不信感をおぼえさせた」と指摘する。
587 名前:毎日新聞5/20東京本社朝刊12面-3 投稿日:02/05/20 09:22 ID:???
放送作家として数多くのドキュメンタリー番組を見つづけている松尾羊一sんは、「文字盤を持つ母親
と流奈君の間に微弱な電波が流れ、一体化するかのようなコミュニケーション。それが実であるか切ない
虚であるか、取材者に、そこに一歩踏み込む勇気がないのがもどかしい。スタジオパークでのスローモー
ションによる反論と弁明では答えになっていない。人間の能力の素晴らしさを訴えるなら、さらなる取材
と科学的な検証を求めたい。続編を期待する」と語る。
一方、「番組に励まされた」とする意見もある。NHKには、「自分にも障害児がいるが、流奈君の姿を
見て、子供の可能性に希望が持てた」「障害児の親だが、番組への批判の中に、『障害児がそんなに高い
能力を持つのはおかしいのでは』という偏見がある気がする」などの意見が寄せられている。
590 名前:毎日新聞5/20東京本社朝刊12面-4 投稿日:02/05/20 09:29 ID:???
◇ ◇ ◇
専門家は番組をどう見たか。米国のドーマン博士の研究所に通って研究したこともある、埼玉大教育学部の
西村章次教授(障害児心理学専攻)は、「重い障害の子供が、根気強い訪問教育の結果、文字盤を使って思い
を伝えるようになった例がある。番組の中のコミュニケーション場面については疑問視する専門家も多い。し
かし、子供の微妙な動きは、人との交流の中で表現されていくものであり、検証は難しい。意に反する検証テ
ストは、子供の人格を傷つけるおそれがある」と語る。
さらに、「ドーマン法は、膨大な時間とお金がかかるうえ、誰にでも効果があるわけではない。番組を見た
人がドーマン法を過大に評価しかねないのは問題。流奈君が今後親から自律(原文ママ)し、青年としてどう
仲間とかかわるか。社会の支援の中で障害児が隠された力をどれだけ発揮していけるか。メディアにはその観
点を貫いてほしい」と語る。
598 名前:毎日新聞5/20東京本社朝刊12面-5 投稿日:02/05/20 09:33 ID:???
考えてみればテレビは「信じられない現象」を伝えるのが好きなメディアだ。それが「宇宙人と遭遇!!」といったた
ぐいの話ならば笑って済ませられるが、厳しい毎日を生きている一家を取り上げた番組が、多くの視聴者から疑問を
投げ掛けられた以上、今後も納得のいく説明が必要だろう。「NHKスペシャル」という信頼度の高い番組だからこそ、
これだけの反響もあった。
「奇跡の詩人」は半年かけて取材をし、専門家の助言も得ているという。この一家の継続取材を続けるなかで、別
の形のドキュメンタリーが生まれることを期待したい。