近年ドーマンの人間潜在能力開発研究所は、これまでの脳障害児の「治療」主体の態勢から
方向転換を図り、普通の子供の知力向上に力を入れ始めた。幼児に早期から読書や筋肉運動
などの活動をさせて、能力を高めようというのだ。ドーマンはこの事業を自らの著書、『赤ち
ゃんの頭を良くする方法』で紹介している。この著作は前著同様、基本的なところで神経解剖
学上の誤りだらけなのだが(例えば、脳の後半分と脊髄は「5本の感覚刺激の入路から構成さ
れていて」、前半分は感覚刺激の出路からなっている、など変なことを書いている)、幼児に
早期の段階で様々な刺激を与えると、その子供の知力発達に好影響を与えるという基本前提は、
あながち間違ってはいない。とはいえ、ドーマンが報告している知力の劇的な向上らしきもの
の数々は、両親と研究所スタッフの希望的観測と解釈的知覚によるものが多く、実際に子供の
能力が飛躍的に伸びたとは言い切れないのである。