(前略)
構造改革の旗印と安倍首相個人の情熱
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問題は、安倍氏がその運を使って何をするかだ。同氏はもっとスピードを上げて一連の構造改革を
推進すると述べている。安倍氏は選挙前のインタビューで、農業・医療分野で進展を遂げ、労働市場を
より柔軟にし、発送電の分離によって電力市場の自由化を進めると約束した。
注目すべきは、安倍氏が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で米国との妥結が近いと述べたことだ。
それが現実となれば、日本が改革に真剣であることを示す強烈なメッセージとなるだろう。
しかし、右派の国家主義者である安倍氏にとっては、経済情勢は最たる情熱の対象ではない。
同氏の見るところ、経済力は主に、国家の誇りを取り戻し、さらには日本の歴史的な物語を書き替えるための
手段として重要なのだ。
安倍首相は選挙での勝利の直後、1946年に日本が征服者の米国に押しつけられた平和主義の戦後憲法を
改正する自民党の「悲願」について語った。
憲法改定には衆参両院の3分の2の票に加え、国民投票で過半数の賛成が必要となる。安倍氏は先日、
平和主義に関する条項の修正を含め、日本が独自の条文を定める必要性について「国民の理解を深めていく」
と誓った。
そうした決意は大きな妨げとなり、恐らく成功しないだろう。今回勢力を伸ばし、大きな仏教団体に
支持されている公明党は、強い平和主義の性格を持つ。日本の戦時中の歴史について安倍氏以上に偏った
見方をする盟友数人は選挙で惨敗した。元東京都知事で気難しい石原慎太郎氏(82歳)が率いる右派政党の
次世代の党は消滅したのも同然だ。
その一方、平和主義の日本共産党は、改選前の2倍以上の21議席に議席を伸ばした。安倍氏が国会で
過半数を持つとはいえ、そうした状況は(安倍氏の支持率低下とともに)、大半の日本人が望まないプロジェクトを
実行する同氏の力を制約するだろう。望まれるのは、安倍氏がこれを速やかに理解することだ。
年末の特別国会から立法議案の審議が再開する。不手際に終わった9月の内閣改造後、安倍内閣の顔ぶれは
変わらない。景気を刺激し、円安による輸入コスト上昇に苦しむ家計を支援する補正支出法案を含む2015〜16年度
予算が最初の議題になる。
集団的自衛権と原発再稼働という難題
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予算編成と4月の重要な地方選挙の後には、より難しい課題が待ち受けている。その1つが、日本が同盟国――
特に米国――の支援に駆けつけられるようにする集団的自衛権の新たな決定の施行に向けた法案の可決だ。
この変更には国民の激しい反発が予想される。
議論を呼ぶもう1つの決定は、国内の原子力発電所をさらに再稼働させる試みだ。鹿児島県薩摩川内にある
川内原発の原子炉2基は、すでに日本の原子力規制委員会と地元の市議会から再稼働の許可が下りている。
その次は福井県の高浜原発の原子炉かもしれない。
安倍氏の顧問らは、原発再稼働はそれほど大きな課題にはならないと話している。だが、原発に対する
国民の信頼が低いことを考えれば、地元の同意を必要とする再稼働は、一つひとつの案件がエネルギーを
消耗する戦いになるだろう。
政府の改革派にとってはがっかりしたことに、選挙期間中に安倍氏は改革の優先順位についてほとんど触れなかった。
同氏の支持者らは、官僚機構も自民党内の多くの人も構造改革に猛反対していると言う。だが、安倍氏の勝利は
双方に対する支配力を強めた。もはや力強く前進することを厭う言い訳はない。今後3〜4カ月が安倍氏にとって
――そして日本にとって――極めて重要になるだろう。
(英エコノミスト誌 2014年12月20・27日合併号)
日本の選挙:安倍氏は新たに得た信任で何をするのか:JBpress(日本ビジネスプレス)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42568?page=2