河岸:確かに街の小さなケーキ屋さんでは、家族総出で徹夜でケーキを作る店もあるよね。
でも、それにしたって、スポンジを焼くオーブンも、生クリームやできたケーキをしまっておく冷蔵庫だって同じなわけだから、
作れる数にはどうしても限界がある。工場も同じで、イブの前日に24時間態勢で作ったとしても、需要に見合うだけの数は作れない。
N君:なるほど……。じゃあ、どうするんですか?
河岸:答えは簡単、「作り置き」するの。3カ月前の9月、10月ごろから作っておいて、ケーキを冷凍しておく。
N君:9月から!? ケーキは生ものじゃないですか。冷凍したら、おいしくなくなるでしょう。
河岸:そのとおり。最近は凍結技術が進化しているけど、
やっぱり一度冷凍してしまうと、味がてきめんに落ちてしまう。もちろん作りたてには勝てない。
N君:じゃあ、僕たちは「味が落ちた冷凍クリスマスケーキ」を食べているってことですか?
定番のクリスマスケーキにはイチゴが載っていますか、あれごと冷凍するんですか?
河岸:クリスマスケーキの定番、イチゴのショートケーキは、まずスポンジを焼いてクリームを塗り、
イチゴなどでデコレーションして作るよね。でもイチゴは冷凍に向かないら、スポンジにクリームを塗った状態まで作っておいて冷凍するんだ。
N君:それを販売する直前に解凍して、イチゴを飾って出すわけですね。
でも、イチゴがスポンジの間に挟まっているケーキもあるじゃないですか。あれはどうしてるんですか?
河岸:それは2つあって、冷凍していないケーキの場合もあるけど、一方で、スポンジだけ冷凍しておいて直前に解凍し、イチゴを挟んでクリームを塗っているケーキもある。
N君:なるほど、冷凍ケーキには「クリームまで塗った状態で冷凍するケーキ」と「スポンジだけ冷凍するケーキ」
の2種類あるわけですね。間に冷凍に向かないイチゴが挟まっているからといって、冷凍ケーキでないとは言い切れない、と。
河岸:その通り。ただ、冷凍ケーキの場合は、イチゴではなく「冷凍に向くフルーツ」を使っているケースが多いけどね。
N君:「冷凍に向くフルーツ」というのは?
河岸:スーパーでよく缶詰に入って売っているようなフルーツ。白桃、黄桃、りんご、洋なし、みかんとかね。
N君:「フルーツポンチ」のようなものですね。たしかに、そういうフルーツが挟まっている
クリスマスケーキもありますよね。でも、生クリームは冷凍したら、味が落ちるんじゃないですか?
河岸:そもそもクリームには、動物性と植物性の2種類あるのは知ってる?
N君:いえ、全然知らないです……。
河岸:牛乳を原料に作るのが「動物性」で、いわゆる「生クリーム」と呼ばれるもの。
一方、乳脂肪を植物性油で置き換えて人工的に作る「植物性」のクリームは、「ホイップクリーム」と呼ばれる。
乳脂肪分が18%以上じゃないと「生クリーム」とは呼べないからね。ニセモノとまでいわないけど、いわゆる模造品。
N君:牛乳から作る「バター」と、植物性油から作る「マーガリン」の違いみたいなものですね。
河岸:そのとおり。でも動物性の「生クリーム」は冷凍に向かないんだ。それに比べて植物性の「ホイップクリーム」
は凍結解凍しやすい。それに「ホイップクリーム」のほうが値段も3分の1程度と安い。
だから「冷凍ケーキ」には、生クリームを使わず「ホイップクリーム」を使っている店が多い。
N君:なるほど、だからクリスマスケーキの「原材料」を見ると、「ホイップクリーム」と書かれているものも多いんですね。
冷凍に向く「缶詰フルーツ」を使い、冷凍に向く「ホイップクリーム」を使って作っている。
だから、需要に見合うだけの数を作れるけど、その反面、いつも買うケーキよりも味が落ちる傾向にある、と。
河岸:うーん、そのとおりなんだけど、必ずしもそうとは言えない。なぜなら、チェーン店の中には、もともと「冷凍ケーキ」を販売している店も多いから。
N君:えっ? マジですか? 僕たちは普段から「冷凍ケーキ」を食べているんですか?
http://toyokeizai.net/articles/-/56260 9月に作る!? 切ない「Xmasケーキ」の裏側