ひんしゅく買う850万円の「職員喫煙所」 庁舎外に設けて波紋
他人のたばこの煙を吸わされ健康被害を起こす「受動喫煙」をなくそうと、西日本で初めて昨年4月に
施行された兵庫県受動喫煙防止条例。「建物内禁煙」を義務づけられた県内8カ所の税務署が、
計約850万円を投じて庁舎外にプレハブなどの喫煙施設を設けたことが波紋を広げている。
一部には兵庫県から条例違反の疑いで調査したものもあり、たばこの健康被害を訴える医師らは
「条例に違反するだけでなく、公務員の職務専念義務違反にも抵触する。職員の健康を守るためにも
喫煙室は作らないでほしい」と批判している。(加納裕子)
■プレハブ喫煙所に10分で4人
平日の午前9時半ごろ、兵庫県芦屋市の芦屋税務署。細い路地に面した庁舎裏口からネームプレートを
首から下げた若い男性職員が出てきて、広さ約5平方メートルのプレハブに入っていった。
ここは昨年設置された喫煙所だという。約10分間に出入りした職員は4人。滞在時間は1人5〜7分。
最後になった2人の職員はボタン式の鍵を操作し、談笑しながら出ていった。
「もともとは本庁舎内に喫煙所があったのですが、県の条例で庁舎内での喫煙が禁止になった。職場環境を整えるために、外に付け替えなければならなかったのです」
近畿2府4県の税務署を所管する大阪国税局の広報担当者はこう説明する。
大阪国税局によると、兵庫県内21カ所の税務署のうち、県条例の施行にあわせてこうした喫煙施設を新設したのは芦屋や灘、洲本など8カ所。
条例の施行前年の平成24年12月に入札を行い、計約850万円で完成させた。敷地の広さや本庁舎の形状に合わせ、芦屋税務署などではプレハブを建設。
灘税務署では本庁舎の外階段下の倉庫を喫煙所に作り替えたという。
職員が仕事中に喫煙する環境を整えるために約850万円。冬は少々寒いが、屋外で携帯灰皿片手に吸ってもらうわけにはいかなかったのだろうか。
大阪国税局としては「屋外であっても人が通る場所で吸えば、煙が行ってしまう。受動喫煙を重視した結果、喫煙所を囲むのに費用がかかってしまった」と説明。
一方で、ある職員は「税務署職員が外でたばこを吸っていたら、納税者から苦情が来る」と打ち明け、
「公務に支障がなく、社会通念上認められる時間や回数なら構わないでしょう」と理解を求める。
(中略)
■抜け道だらけの条例に批判も
たばこの煙にはニコチンや発がん物質、一酸化炭素などの有害物質が含まれ、喫煙はがん・循環器・呼吸器・妊娠への影響など広範囲な被害を引き起こす。
厚生労働省によると、国内では喫煙によって毎年12〜13万人が死亡し、受動喫煙による肺がんと虚血性心疾患で、ほかに約6800人が死亡しているとしている。
同学会では、受動喫煙による疾患は他にもあり、年間の死者は2〜3万人にのぼると推定。
他の場所で喫煙してきた人が吐き出す息や体に付いた有害物質を吸い込む「サードハンドスモーク」でも健康被害を引き起こし、
特に妊婦や子供が吸い込んだ場合、子供の肺の発達に悪影響があることが判明しているという。
受動喫煙防止条例は22年4月の神奈川県に続き全国2例目の先進的取り組みだが、医療関係者からは「抜け道が多く、中途半端で不完全」と批判も強い。
当初、民間施設にも全面禁煙を義務付けることを検討したが、業界団体の反発を受けて規制内容が後退した。
大学などは建物の公共的空間のみを禁煙とすればよく、小規模な宿泊施設や喫茶店では全域を喫煙区域とすることも可能だ。
四方室長は「大学が敷地内禁煙にしたら通学路で吸う学生が増え、近隣から苦情が出て、結局敷地内に喫煙所を設けたところもある。
そうした事例は他にもたくさんあり、無理に厳しい条例を作っても元に戻るだけ」と説明。
その上で「たとえば兵庫県庁では、いつでもどこでも喫煙できたのが19年に執務室内で吸えないようになり、25年から建物内禁煙になった。
たばこ問題をめぐる5年、10年の変化は急激で、今後の社会の変化を見ながら進めていきたい」としている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140705-00000551-san-pol