慰安婦像の撤去を求める米裁判に黄信号
原告は四面楚歌、アジア系法曹界が挙って提訴に反対
高濱 賛
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140602/265952/ カリフォルニア州グレンデールに設置された従軍慰安婦像撤去を求めて在米邦人団体が提訴したのは
今年2月20日。連邦地裁中央カリフォルニア支部はこれを受理したものの5月30日現在、
公判日程は決まっていない。にもかかわらず、原告である「歴史の真実を求める世界連合会」
(=GAHT、代表は目良浩一 元南カリフォルニア大学教授)は既に四面楚歌の状況に陥っている。
その理由は三つある。
一つは、4月に原告代理人となった米有力法律事務所、メイヤー&ブラウン社(本社シカゴ)が突如、
一方的に契約を解除したこと。慰安婦問題を巡る原告との立場の違いを理由に、
これまでの弁護費用を無料にする条件で原告代理人を降りたのだ。当初、原告の依頼を二つ返事で承知したこの法律事務所に何が起こったのか。
二つ目は、提訴から2カ月経った4月21日、韓国系弁護士会ワシントンDC支部をはじめとする
13支部が慰安婦像撤去反対を声明。その1カ月後には、グレンデールを含むロサンゼルス大都市圏で弁護士活動を繰り広げている
南カリフォルニア日系弁護士会(JABA)と同韓国系弁護士会(KABA)とが「撤去反対」を主張する共同声明を出すに至ったのだ。
さらに5月27日、日系、韓国系などアジア系弁護士会の上部機関である
「全米アジア・太平洋系アメリカ人弁護士会」(NAPABA)がJABAとKABAの共同声明を踏まえ、
「撃ち方止め」を要求するステートメントを出した。「アジア・太平洋系アメリカ人法曹界が、
歴史認識を巡る意見対立やグレンデールの慰安婦像を巡る論争によって
アジア・太平洋系アメリカ人社会を二分するようなことは許さない、とした対応を心強く思っている」。
筆者はNAPABAに対し、この声明の狙いを問い合わせているが、脱稿段階では回答は届いていない。
が、日系、韓国系弁護士会をはじめとするアジア系弁護士会の声明を支持しているところを見ると、
原告の肩を持っているとは思えない。むしろ「アジア・太平洋系アメリカ人社会を分断しようとする原告」は許せない、ということだろう。
在米邦人とアジア・太平洋系アメリカ人とをはっきりと分けている。そう見ると、韓国系のみならず、
アメリカ生まれ、アメリカ育ちのアジア系2世、3世弁護士たちが挙って、在米邦人である原告の「撤去提訴」に
レッドカードを突きつけたと言える。原告にとって、戦が始まる前に外堀を埋められてしまった観すらある。
続々と増える慰安婦碑・・・(略)
外務省は「政治的、外交的問題にせぬ」と傍観(略)
慰安婦論争が米国で再現する懸念(略)
最後に原告の「GAHT」の代表、目良氏にコメントを求めた。同氏は、
現状を報告するために3月と5月の2度にわたり日本を訪問している。3月には衆院議員会館の
集会場で国会議員を集めて報告。5月にはインターネット「言論テレビ」で桜井よしこ氏と対談している。
コメントは以下の通り。
「(メイヤー&ブラウン社が契約を解除したのは)かなりの圧力があったためだと想像している。
(背後にいるのは)ユダヤ人だろうか。彼らがホロコーストと慰安婦を一緒にするはずがない。だからユダヤ人ではない」
「(米法曹界の反応については)予期していなかった展開になっている。確かにショックだ」
「(連邦地裁が玄関払いした場合はどうするのか、という質問には)むろん、連邦高裁に控訴する。
(軍資金はあるのかとの質問に)日本(の支持者)からカネはかなり集まっている。どのくらい集まったか、についてはホームページを見てくれ」
(*3月10日時点で寄付件数は1840件とあった。5月30日時点のホームページでは、
寄付金総額については「現在公開を控えさせていただいております」となっている。理由は書かれていない)
同氏は最後に「あなたはジャーナリストとして(裁判の行方について)どうなると思うか」と筆者に対して逆に尋ねた。
むろん、筆者に答えはない。このように質問すること自体、公判が開始前から既に前途多難であることをいみじくも示している。