処方薬の服用履歴をスマートフォンなどで管理する「電子お薬手帳」の利用が広がりつつある。常に携帯でき、飲み忘れ防止の
アラームなど便利な機能も多い。ただ、どの薬局でも共通して使える仕組みづくりが課題だ。
長野県上田市の飲食店経営、宮沢拓真さん(40)は昨冬、長男(10)が風邪をひき、医師から現在服用中の薬の有無を聞かれた際、
スマホの電子お薬手帳を見せた。当時、長男は皮膚科でも薬を処方されていた。「複雑な薬の名前を覚えるのは難しい。スマホに情報
があれば、見せるだけで適切に処方してもらえるので便利」
宮沢さんは上田薬剤師会が実証実験を始めた2年前、かかりつけ薬局の勧めで利用を始めた。アプリは無料で自分以外も登録でき、
妻と3人の子どもの服薬記録を1台で管理する。
使い方は、薬局で渡される薬の明細書に印字されたQRコードをスマホで読み取れば、薬の種類や用量、服用法が自動記録される。
薬を飲む時間になれば音で知らせるアラームや、血圧や体重などを記録する機能もある。それまで紙の手帳を持ったり、血圧を記録
したりする習慣はなかったが「自然と自分や家族の健康に意識が向くようになった」という。
お薬手帳は薬の飲み合わせや、複数の医療機関での重複投与、アレルギーや副作用歴のある薬の投与を防ぐため、医師や薬剤師
と患者が情報を共有するための記録。従来の紙の手帳は持参するのを忘れたり、紛失したりする人も多い。
上田薬剤師会は千葉大やシステム会社などと実験をしており、市内の約90ある薬局の3割ほどが参加。薬局で薬剤師がスマホを
専用端末にかざし、服用歴を取り込むと、コンピューターが自動的に飲み合わせの悪い薬などを表示する機能も検証。地域の医療機関
と手帳の情報を共有する仕組みも検討しており、薬剤師会の飯島伴典(とものり)さん(36)は「単なる手帳の電子版ではなく、利用者が
健康管理できる総合ツールにしたい」と話す。
電子お薬手帳には情報の保管性も期待される。昨年から神奈川県が慶応大と共同で実施する実証実験では、参加者約550人が
個人で情報管理するほか、インターネットを通じてデータを特定のサーバーへ保存。スマホが手元になくても別のパソコンなどから
情報を確認でき、災害時などの活用が見込まれている。
ほかにも調剤薬局の「アイセイ薬局」(東京)が今月から、一部店舗で顧客を対象に新たなアプリの実証実験を開始。利用者が薬を
飲むたびに記録ができ、ホーム画面で常に飲み忘れの有無を確認できるようにした。昨年、実証実験をした大阪府薬剤師会は、利用者
の8割が「使いやすい」と答えたこともあり、昨年9月から、アプリ「e?お薬手帳」を公開。専用ホームページで自由にダウンロードできる
ようにした。
こうした多角的な機能を評価し、厚生労働省は2015年度末までに、全国の薬局の30%以上で電子お薬手帳が使えるようにする
方針を掲げるが、普及に向けた課題もある。
お薬手帳は1冊にまとめなければ、薬剤師や医師が正確な服用履歴を把握できない。ただ、実際は薬局によって導入しているシステム
や、利用者が使えるアプリが異なるケースも多く、複数のアプリでばらばらに情報を管理する事態を懸念する声もある。
また、複数の医療機関を受診し、最も手帳が有用な高齢者にとっては、スマホの操作自体がネック。上田市の実証実験を主導する
北海道大大学院の岡崎光洋客員研究員(44)によると、個人情報の詰まったスマホを薬局で薬剤師に手渡す抵抗感もあり、市民60人
へのアンケートでも「渡して構わない」と回答したのは3人だけだった。岡崎さんは「患者の目線で使いやすい仕組みを構築する必要が
ある」と話す。
ソース(中日新聞)
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20140528142340415 写真=「電子お薬手帳」のアプリのインストールを店頭で実演する飯島伴典さん(左)ら上田薬剤師会の会員
http://iryou.chunichi.co.jp/img/article/201405/20140528142340415/20140528142340415_7455707be59eba7b42dc196206acb545.jpg