小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』の漫画「美味(おい)しんぼ」で、東京電力福島第1原発事故による放射線被曝(ひばく)が原因で、
福島で鼻血が出た人がたくさんいるなどの描写があった。放射線の体への影響は既に多くのことが分かっており、
漫画に描かれたような事実はあるのか。被災地の復興のためにも合理的な判断と冷静な対応が求められている。
鼻血は、放射線による急性障害の場合に出ることが知られている。被曝で骨髄の造血能力が著しく抑制され、
白血球や血小板が減少することで出血しやすくなるためだ。ただ、急性障害は一度に1千ミリシーベルト以上の放射線被曝をした場合に起こるとされる。
東電によると、今回の事故以降に現場作業に携わった人でも一度に1千ミリシーベルト超の被曝をした人はおらず、
これまでの累積被曝線量でも1千ミリシーベルト超の人はいない。廃炉作業にかかわる作業者に鼻血が多発するような事例もないという。
福島県の調査では、放射性物質の降下量が多かった飯舘(いいたて)村や浪江町を含む相双地域の住民が事故後、
約4カ月で受けた推定の外部被曝線量は10ミリシーベルト未満が99・8%、10ミリシーベルト超は127人いたが、最大で25ミリシーベルトだった。
漫画では、登場人物が第1原発構内の見学後に鼻血を出し、疲れやすくなったとする描写がある。
記者も今年2月、同様の見学をしたが、同行者で鼻血を出した人はいなかった。
記者自身、疲れやすくなったということもない。見学では構内に入る前に個人線量計をつけ、
構内でどれだけの線量を浴びたかを調べる。記者の場合は0・01ミリシーベルトで、航空機旅行「東京−ニューヨーク」(片道)の10分の1の線量だ。
もちろん、事故後に福島県内で鼻血が出た人はいただろう。鼻血は高血圧や動脈硬化など循環器系の病気や腎臓・肝臓病などでも出やすくなる。
ワーファリンなどの抗凝固薬を服用している人や女性では生理中に出やすい。また、知らないうちに鼻をぶつけたり、風邪などで鼻に炎症ができても鼻血は出る。
漫画ではまた、低線量被曝の健康影響を心配し、前双葉町長の「今の福島に住んではいけない」との言葉を紹介している。
福島に住んでいる人や福島への旅行を計画している人の中には不安に思った人がいるかもしれない。
ただ、100ミリシーベルト以下の低線量被曝の健康への影響については100年近くも研究されており、極めて小さいことが分かっている。
現在、福島県で暮らす人々が原発事故によって余分に受ける放射線量は年間1ミリシーベルト程度で、健康への影響が心配される数値ではない。
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/140525/cpd1405250848001-n1.htm >>2