■ 山本ミヤ子
石村文人から借地して金峰字郷3949-11に住んでいたカツヲの隣人である。
他の被害者と異なり、カツヲとの間で世間的に理解可能なトラブルを抱えていた唯一の被害者だ。
彼女の夫である正夫が昭和55年、石村から借地して家を建てる。
その横にはカツヲの父親である保見友一と妻が住んでいた家が、やはり石村から借地した土地の上に建っており、
両者は同じ借地人の気安さで長く隣人として付き合ってきたはずである。
その平穏はカツヲが帰ってきたことにより破られた。
カツヲは父親の住んでいた家の建つ土地と周辺の土地を石村から買い上げ、これに伴い土地の分筆が行われて
境界線が厳密に定められるようになった。
それまではどこからどこまでが自分の敷地ということもなく、同じ石村地主から借りた土地としてルーズな環境で
あったに違いないものが、突然区画線が引かれ、直近には背の高い建物がそびえ建つようになった。
山本としては土地を我が物とした保見家への嫉妬もあったろうし、その土地を道路改良工事に伴い転売することで
利益を得たカツヲへの嫉妬もあったかもしれない。実際この当時のカツヲはあまりにもトントン拍子にうまく事が進み、
好事魔多しの喩え、人々の妬みや嫉みを一身に集める運命にあったかのようである。
やがて山本の敵意が表面化する。主婦ネットワークで噂を流すのはもちろん、カツヲの持ち物へ対する直接的な
行動に出た可能性もあろう。カツヲはダミーカメラを山本宅へ向けていたという。また車へのイタズラや盗難を防ぐ
ためネットを張ったとも聞く。こうした動きはカツヲが隣人に強い警戒心を抱いていたことが看てとれ、そしてその警戒の
原因となった行動を山本が取っていたことを推測させるのである。
地主で有力者の石村文人と同級で親しい間柄の山本にとっては、石村がカツヲを嫌っていることは我が意を得たりで
自分のカツヲへの嫌がらせを正当化する願ってもない免罪符でもあったのだ。