「自殺するような人ではなかった」—亡くなったキャリア官僚を知る人はみな、口をそろえてこう言った。
謎の死の背景にあった国家間の情報戦。完全秘密主義の内閣情報調査室をレポートした。
4月1日、午後3時7分。
険しい表情で首相官邸へと入っていく二人の男の姿があった。一人は北村滋・内閣情報官。内閣情報調査室のトップだ。
3時17分、同行していた防衛省の木野村謙一・情報本部長が先に官邸を出た。
そこからさらに10分間、北村氏は安倍首相と「密談」を続けたのだった。
「会談内容は極秘扱いですが、もちろん、同日朝に自殺した内調大物メンバーの件に間違いありません。
防衛省の情報本部長が同席したことからも、国家機密漏洩の可能性も含めて、緊急の会談が持たれたのでしょう」(官邸担当記者)
時計の針を7時間前に戻そう。
4月1日、午前8時前。東京都渋谷区恵比寿の閑静な住宅街に、消防車のサイレン音が鳴り響いた。
通報のあったマンションの一室に駆けつけた消防隊員は、内側から目張りしてあったドアを蹴破って、浴室へ入った。
浴室内は練炭のたかれた跡があり、床には内閣情報調査室・加賀美正人参事官(外務省から出向中・享年50)の遺体が横たわっていた。
通報をしたのは、加賀美氏が同居している母親の介護を務めるヘルパー。
浴室のドアにあった「死んでいます。部屋に入らないでください」と書かれた奇妙な張り紙を見てのことだった。
この加賀美氏の死は官邸と外務省に大きな波紋を呼び、それがいま永田町にも広がりつつある。
「『介護疲れによる自殺のようだ』と外務省幹部はふれ回っていたが、どう考えても家庭の事情による突発的な自殺とは思えない。
練炭という苦しみを伴う方法からみても、加賀美氏には何か、確実に死ななければならない理由があったのではないか。
さらに言えば、そもそも、加賀美氏の死は本当に自殺なのか……」(自民党議員)
なぜ一人の外務省キャリアの死が、ミステリー小説のような憶測を生むことになるのか。
謎解きを始めるにはまず、内閣情報調査室(内調)という耳慣れない組織の実体を知らなければならない。
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