【天声人語】笹子トンネル天井崩落事故…悲劇を口実に予算が野放図に復活しては困る、命を守る策はむしろ「コンクリから人へ」だ

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アルプス最高峰、モンブランのトンネルを車で走ったことがある。約4千円の通行料より、時速50〜70キロ、
車間150メートルという厳格な規制にたまげたものだ。1999年の火災事故(死者39人)の教訓と聞いた

▼フランスとイタリアを結ぶ細穴は、12キロ弱の対面通行である。高速道から入るとノロノロ運転の感覚で、
遠くのテールランプをにらんでの10分が長い。閉所に弱い当方、名峰の胎内に限らず、トンネル内ではあらぬ悪夢が
胸をよぎるのが常だが、頭上を案じたことはついぞなかった

▼中央自動車道笹子(ささご)トンネルの天井崩落は、3台を巻き込み、9人が亡くなる惨事となった。130メートルにわたり
300枚ものコンクリート板が落ちる、前例のない事故である

▼崩れたのは全長の3%。7秒で抜けられる距離で、ひと息の差が生と死を分けた。前触れもなく、前途を絶たれた人の
絶望に胸が詰まる。渋滞していたらと思うと、なお恐ろしい

▼開通以来35年、外は地圧と水、内は排ガスや振動にさらされてきた。老朽化という時限爆弾が、天井裏に
埋め込まれていなかったか。秋に点検済みとはいえ、最上部のボルト周辺は目視のみ。打音検査なら劣化が分かったかもしれない

▼「中高年」に入るインフラは、入念な手入れが欠かせない。悲劇を口実に、道路予算が野放図に復活しては困るが、
命を守る策はむしろ「コンクリから人へ」だ。今の日本には、蓄えたものを細く長く使う、倹約の哲学がほしい。それを劣化とは呼ばない。

ソース:http://www.asahi.com/paper/column20121204.html