【社説】 「大阪の『子供襲った性犯罪者情報』条例、人権侵害だ。刑期終了=償い終了。再犯率は高いが、窃盗犯の方が高い」…京都新聞

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・18歳未満の被害者に対する性犯罪の前歴がある人に住所や連絡先の届け出を義務付ける大阪府の条例が
 10月から施行される。子どもを性犯罪から守りたいという思いは理解できる。しかし、前歴者を「犯罪予備軍」の
 ように扱うことには違和感を覚える。

 刑を終えれば罪は償ったはずだ。同意の上とはいえ、刑務所から出ても監視されるのは人権侵害の疑いがある。
 条例を発案した当時の橋下知事は「プライバシーというだけで思考停止して手を打たないのは行政の任務放棄」とする。

 確かに海外では、性犯罪への厳しい対応が目立つ。
 米国では、前歴者をGPSで追跡して住民に警告したり、ネットで住所や写真を公開する州もある。
 韓国でも、強制的な薬物治療を認める法律が成立し、ネットで個人情報が公開されている。
 国内でも宮城県がGPS端末の携行義務化を検討したが、震災で審議は中断している。
 大阪府の条例はこうした流れに沿ったものだが、妥当かどうかは別問題だ。海外でも人権団体などは反対している。
 行政による住居の把握やGPSを使った追跡が、性犯罪前歴者から精神障害者や薬物依存者などへ
 拡大していく恐れもある。

 条例の効果も疑問だ。府への届け出が再犯抑止につながるのか。対象者が大阪府外に移れば意味はなく、結果として
 対象者を大阪から追い出すだけになりかねない。
 性犯罪、とりわけ子どもを対象にした性犯罪に対する国民の目は厳しい。3年前から始まった裁判員裁判でも
 性犯罪への量刑が重くなる傾向がみられる。
 国民感情と人権擁護をどうすり合わせるのかは難しい問題だが、性犯罪の前歴者を過剰に危険視することは避けるべきだ。
 2010年版犯罪白書によると性犯罪者の再犯率は37・5%だ。確かに高いが、強盗や窃盗など財産犯の方が絶対数が
 はるかに多く、しかも再犯率が高い(46・8%)ことは知っておきたい。

 現行の保護観察制度は、仮出所者に転居の届け出や再発防止プログラム受講の義務を課す。こうした制度の
 運用を工夫し、更生の可能性を高める努力が先だろう。
 そのうえで、性犯罪を特別扱いせず、犯罪歴の扱いや情報開示について成熟した議論が必要だ。
 http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20120927_3.html