【海外】スイス:福島事故直後に「脱原発」方針のはずが、推進派巻き返し 「開発は継続」を選択
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再チャレンジホテルφ ★:
昨年の福島第1原発事故から2カ月後、スイス政府はいち早く「脱原発」方針を打ち出し、
その3週間後には下院が法案を可決した。素早い動きは、一時パニックに近かったスイスの
国内世論を安堵(あんど)させた。しかし、国民の関心が薄らいだ後、実は上院で
「原子力の研究開発は続ける」という法案修正が行われ、下院もこれを追認した。
原発の稼働は続き、現状は事故前と変わらない。「脱原発」国の実情を報告する。【ジュネーブ伊藤智永】
◇「新世代炉はOK」主張も
政府と下院が当初決めた「脱原発」とは、現在動いている4カ所5基の原発を、運転開始から50年で寿命とみなして
2034年までに順次停止し、3基予定していた建て替えも取りやめ、再生可能エネルギーに力を入れていくという内容だ。
ところが、世間がバカンスを過ごしていた昨年7〜9月、上院エネルギー委員会では、
形勢の巻き返しをもくろむ水面下の折衝が繰り広げられた。
「12年にも着工する予定だった原発の建て替え計画を5〜10年先送りし、安全技術をさらに向上させよう」。
原発推進派の議員らは当初、原発更新計画の延期で、現行政策の存続を狙った。
「上院は下院より保守的で、業界ロビーが強く、地球温暖化対策のクリーンエネルギーとして
原発依存に傾斜したここ10年来、推進派が多数派だ。原発新設を予定していた電力会社役員もいたし、
昨年の委員長はロビー団体の会長だった」(緑の党・クラメル委員)
こうした状況の下で左派議員が抵抗。上下両院の総選挙を控え「脱原発を進めるが、原子力の研究開発は続ける」
という妥協が成立した。上院は9月に法案を修正して下院に再送付し、下院は選挙後の12月に再可決した。
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毎日新聞 2012年2月27日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/world/news/20120227ddm012030070000c.html
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「脱原発」の旗印は残ったが、肝心の「開発継続」の解釈は、はっきりしていない。
上院の議論では、第2・第3世代と呼ばれる既存原発の新設はやめても、スイスや日本など13カ国・機構で研究中の
「より安全で経済効率が高い」とされる第4世代原子炉を念頭に、中道派の自由民主党が
「新技術による原発ができたら、再び利用すべきだ」と主張した。
これに対し、左派・社会民主党のベルベラ上院エネルギー委員長は
「第4世代の実用化はまだ遠い先の話。現在、重要なのは、今ある原発を止めること」との立場だ。
結局、昨年10月の総選挙では、原発維持論の右派から即時廃止論の左派まで、
大所帯の既成5政党がいずれも得票率を減らし、右派と左派から分かれた
二つの中道新党が躍進した。どちらも「経済成長と脱原発の両立」の主張が支持された。
◇5割依存…代替妙案なく
山岳国スイスは、アルプスの豊富な流水を利用した水力発電が中心だが、地形や環境上の制約で
新たな大型ダムが造れない。燃料輸送がままならないため大型火力発電も難しく、
電力需要の増加分は原発に頼ってきた。今は全電力を水力6割・原子力4割で賄う。
ただ、スイスは暖房用の電力が必要な冬に凍結などで水力発電が減るため、フランスから
原発2基分の電力を輸入しており、ピーク時の原発依存率は5割に上る。
しかも世界有数の豊かな生活を維持するため、電力消費量は今も年1%ずつ増え続けている。
こうした原発依存を見直す転機は86年のチェルノブイリ事故だった。
原発への懐疑が広がり、90年の国民投票で「新規建設10年凍結」を決めた。
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>>2の続き
凍結期間が明けるのを待って、反原発派は90年に否決された「脱原発」を問う
国民投票を再び要求したが、政府は原発依存の新エネルギー政策で対抗する。
03年の国民投票では「凍結10年延長」「既存原発5基の順次閉鎖」をともに否決。
政府は05年から原子力開発再開を本格化し、20年までの全5基更新計画を進めていた。
こうした中、原発依存脱却のための再生可能エネルギー開発で、頼みはまずは風力だ。
35年までに全電力の1割を目指すが、「風車による低周波騒音」が問題化し、住民の反対は強い。
太陽光は肝心の冬に曇りが多く、地熱は設備にコストがかさむ。稼働中の全原発を
順次停止していく向こう20年余で、原発相当分を代替できる見通しは立っていない。
原発停止後、廃炉には20年以上かかり、廃炉に向けた技術も確立していない。
費用は総額1兆5000億円相当を想定。積み立て基金は、金融市場で
年5%の投資利益率を見込んでおり、資金不足は確実だ。
核廃棄物は、水の浸透しにくい深い地層に埋める計画で、候補地を選定し、
国際共同研究も行っているが、住民投票で否決が相次ぎ、中断している。
核は怖いが、豊かな生活もやめられない民意が、財政負担や技術の壁、原発増設の
国際潮流に直面して、チェルノブイリ後と同じ「揺り戻し」のサイクルをなぞらないとも限らない。
「原子力開発継続」の逃げ道は、世論のぶれを見越して軌道修正の余地を残した政治家の打算とも読める。
その場合、「脱原発」は選挙を乗り切り、当面の世論をなだめるための政治アピールに終わる可能性をはらむ。
政府は6月、50年までの新エネルギー政策を議会に提出するが、どこまで具体像を描けるかが焦点だ。
(おわり)