3・11以前の福島はもうない。地震、津波、さらに原発事故という例のない震災は、県民にこれまでとは異なる価値観
や考え方を強いている。放射線の恐怖、漂流する住民と自治体、手探りの補償交渉...。
県民は国や東京電力という巨大組織、世の中の風評などと向き合いながら、新しい福島の姿を描かなければならない。
この大難をどう乗り越えればいいのか。県民が悩み、もがく姿を伝える。
ある朝突然、娘の友達が顔を見せなくなった。
福島市の幼稚園に長女を通わせるお母さんが嘆く。昨日まで娘と遊んでいた友達が、前触れもなく次の日から来なくなって
しまうのだという。誰もが放射線を不安に感じている。その影響かどうかは不明だが、県全私立幼稚園協会によると5月末
現在、転園や休園した園児は1555人に上る。例年ならあり得ない数字だ。
義務教育の小中学校より幼稚園の方が「県外脱出」のハードルは心理的に低いとみられる。周囲に相談して余計な波風を立
てるより、何も言わずに引っ越してしまった方が精神的な負担が小さく感じられるらしい。3日、福島市の福島大では市民
グループ「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」が、反原発を主張してきた作家広瀬隆さんの講演会を開いていた。
「議論している時ではない。すぐに子どもたちを避難させるべきだ」。広瀬さんの言葉に背中を押されたのか、講演終了後は
避難・疎開の相談コーナーに人だかりができた。避難したくても経済的な問題や家庭の事情で無理だったり、放射線に対する
考え方が違ったりするため、母親同士でも込み入った相談には臆病になる。
ネットワークの吉野裕之さん(45)は「国が大丈夫と言っているため、避難を後ろめたく感じる保護者は多い」と感じている。
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▽福島民報(2011年7月 4日)
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2011/07/post_1494.html