大阪府議会で3日、教職員に君が代斉唱時の起立を義務付ける条例が成立した。
橋下徹知事が代表を務める首長政党「大阪維新の会」が他党の抵抗を押し切り、わずか2日の審議で可決させた。
個人の思想や歴史観にもかかわる問題なのに、あまりにも性急で乱暴な経緯をたどったと感じる人も少なくない。
この問題を取材し、時間をかけた丁寧な議論が必要だと感じた。
◇知事が突然発案
条例制定のきっかけは、橋下知事が5月初め、今春の入学式で起立しなかった教諭に関する新聞記事を読んだことだった。
府立高校で38人いたことを知って激怒し、維新の会の幹部に条例案の作成を促した。
条例案は同会府議団の議員提案として提出されたが、事実上は知事の発案によるものだった。
知事は府議会で、学校の組織マネジメントの必要性を訴え、起立しない教員を「自由横暴きわまりない」と厳しく批判。
条例によって「組織の命令に従わない教員をたたき直す」と主張した。
条例案は6月2日の委員会、3日の本会議で審議され、他党からは「条例案は拙速に出てきた。
反対の意見もしっかり聞くべきだ」と丁寧な議論を求める意見が相次いだ。しかし、維新側は「政治のスピード感の違い。
十分丁寧に説明している」と採決を主張し、条例を成立させた。その強引なやり方に、私は驚きを通り越して恐れすら感じた。
99年に国旗・国歌法が成立した後も、起立しない教師の処分は慎重にされてきた歴史がある。
大阪府教委は02年に日の丸掲揚と起立斉唱を文書で指示した。
しかし、09年度卒業式で初めて職務命令違反による戒告処分を出すまでは、厳重注意にとどめていた。
思想・良心の自由にかかわる問題だからこそ、慎重な対応が取られてきたのだ。府教委内でも「条例で従わせるより、粘り強く指導すべきだ」という意見が強い。
条例案提出の動きを受けて私は5月下旬、ある府立高校の男性教諭を取材した。学校の君が代斉唱では、一度も起立したことがないという。
教諭は「私も人間なんです。内心はいつも揺れ動いています」と心情を語った。理想に凝り固まった人物を想像していただけに、意外な感じがした。(
>>2-3へ続く)
毎日新聞 2011年6月10日 2時34分
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110610k0000m070131000c.html