庭先で、マツが腰をひねり枝を広げる。奥には、どっしりとした瓦ぶきの家屋。
その2階に男性の部屋はある。
「僕がひきこもっているのは、父さんへの復讐(ふくしゅう)だ」。
そう家族に訴え、30年間、社会と接点を持たずにきた48歳の男性が、
昨秋、中部地方の専門病院に通い始めた。
結婚して家を出ている姉によると、通院へ背中を押したのは、
反発しながらも同居してきた80代になる父の死だった。
「病院へ行こう」。1人になった男性に姉が促すと、素直にうなずいたという。
対人不安から、会話は親類と医師に限られる。
記者も、姉に付き添われて歩く姿を離れて見守った。
病院へ送り、実家に食品を届ける姉は疲れ果てる。
「世間から見ると大人。でも、自立はまだ」
高校3年、最初は不登校から始まった。母の死、いじめ、進路選択などが重荷となり、
思春期の心を閉ざした。
「母さんが甘やかした」「卒業して就職しろ」。仕事中心で、亡くなった母に子育てを任せてきた父は、
叱るほか接し方を知らなかった、と姉は言う。それが息子を逆上させ、時に暴力となった。
http://www.asahi.com/national/update/0104/TKY201101040348.html