前回「一度ネットに流れると……」で、紙の新聞なら未然に防げた誤りもインターネット速報では
後追い対応となる例を紹介したが、ネット上の誤りを食い止める難しさを感じさせるケースはあちこち
にある。
今秋の国勢調査では、東京都をモデル地域として導入されたネット回答方式を試してみた。専用ページ
を開き、画面の指示通り入力していくと、短時間で送信完了。手軽だ。ただし途中の説明画面で、職名の
例に「看護士」とあるのが目に留まった。男女を区別する「看護婦/士」の名称は法改正で8年前から
使わなくなっており、変換ミスだろう。紙に記入する方式の案内冊子には正しく「看護師」と書かれていた。
またある時。大手の地図検索サービスで「択捉島」を探したところ、日本国内に該当なしとして
「択捉島,ロシア」とキーワードを足すよう促された。北方領土を公然とロシア領扱い? 仮に政治的意図は
ないとしても、これが国内で出版された紙の地図なら大問題だろう。露大統領の北方領土訪問をきっかけに
緊張が高まる中、修正しなくていいのかと心配になる。
特に厳密さが求められる法令、条約などでさえ、政府各省の検索システムには「(正確性は)官報が
優先する」との断りがあるし、その官報も電子版には「内容の正確性を問う場合は、印刷物である官報で
再度確認」するよう注意が添えてある。ネットは参考程度という時代はまだ終わっていない。
そうはいってもネット情報の比重は増していく。世の中に不正確なものがあふれてしまうのを少しでも
食い止めなければ……などと肩に力を入れても仕方がないが、そんな役割の一端を担ったつもりで、
ネットの海へこぎ出そうとする手元の原稿たちに目を光らせようと思う。
▽毎日新聞
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20101112mog00m040008000c.html