静寂に包まれた夜更けのアパート。一人暮らしとおぼしき男性が、ベランダに向かう。ギシギシときしむ音。宙で揺れ動く背中。
やがて動きが止まり、部屋から音が消えた。悲しい動画だった。
宮城県の青年が自殺した。どんな形であれ人の死は重くのしかかるものだが、今回特異なのは、
その様子がインターネットの動画サイトで生中継されたことだった。カメラ越しに一部始終を、多くの人に見せていたという。
あわせて彼は、ネット掲示板に自殺をほのめかす書き込みをしていたとされる。
彼がどんな悩みを抱え自殺を決意したのかは知らないが、ネットを通じて誰かとつながっていたかった、
誰かに自殺を止めてほしかったのではないかと思えてならない。
いじめられ、群馬県で自殺した12歳の少女も、誰かとつながっていたかった、自殺を止めてほしかったのだろう。
「やっぱり『友達』っていいな!」。そんなタイトルの自作漫画に、一筋の望みを託したに違いない。
たぶん自殺を考える人の多くが、そんなメッセージを発している。それを誰かに受け止めてもらい、思いとどまった人も少なくないのだろう。
しかし少なくとも2人は死を選んだ。誰も彼らのメッセージに応えてやれなかった。
青年の動画は複製され、行き場を失ったようにネット空間を漂っている。少女の漫画は転校生が自己紹介する場面で止まったまま、
永遠に未完成だ。日本の自殺者は年間3万人。悲しいメッセージは氷山の一角にすぎない。(G)
記事引用元:四国新聞(2010/11/12 09:31配信)
http://news.shikoku-np.co.jp/kagawa/column/201011/20101112000073.htm