・1泊3日の強行軍でブリュッセルを訪れた菅直人首相は、帰国直前でようやく懸案の
日中首脳会談実現にこぎつけ、一応の面目を保った。しかし、温家宝首相は沖縄・
尖閣諸島を自国の領土と主張し、本質的な議論が深まったわけではない。むしろ主権に
かかわる問題を棚上げした上での戦略的互恵関係の推進は、尖閣諸島の領有権や
衝突事件を起こした漁船の中国人船長釈放で「中国の圧力に屈した日本」との
印象だけを残すことにもなりそうだ。
衝突事件後、日中首脳が会談するのは初めて。会談は廊下のイスに座って、約25分間
行なわれた。菅首相は「割と自然な感じ」と語って偶然を装ったが、実は周到に準備
された演出だった。外務省幹部は菅首相の出発前、「関係修復への糸口をつかむために
接触できれば」と語っていた。中国側と水面下で調整した上での「あうんの呼吸」(政府高官)で
温首相と話し合ったことになる。
両首脳は日中のハイレベル協議促進や民間交流の再開も進めていくことで一致した。
だが、衝突事件に対抗して中国側が仕掛けた「報復措置」の解決のめどは立っていない。
会談では、中国河北省で拘束されている「フジタ」の日本人社員1人の解放や、中国が
単独開発の構えを見せる東シナ海のガス田「白樺(しらかば)」(中国名・春暁)の問題は
話題に上らず、予断を許さない状況が続く。
海上保安庁の巡視船と漁船の衝突の様子を撮影したビデオの扱いも今後の焦点になる。
ビデオは衆院予算委員会が9月30日に政府に公開を求める決議をしたが、その後具体的な
動きはない。閣僚の一人は「ここまで来てビデオを公開しなかったら日本の世論は収まらない」
と主張するが、与党内には「ビデオ公開で中国を刺激しない方がいい」(民主党中堅)との
声も出ている。
報道各社の世論調査では、衝突事件に対する菅内閣の対応について7〜8割が不十分との
認識を示している。今後も中国への配慮が過ぎれば、弱腰外交との批判が続くことになりそうだ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101005-00000524-san-pol