「自分以外はすべてバカ」。彼はそう思っている。もちろん菅首相も例外ではない。
宿敵・小沢一郎を追い落とし、もはや敵する者はいない。「仙谷支配」の幕開けだ。
菅直人首相が小沢一郎元幹事長を打ち破り、新内閣を発足させた当日のこと。
勝者の陣営に属していながら、いきなり奈落へと突き落とされた人物がいる。
厚生労働大臣をクビになり、党筆頭副幹事長に「降格」された長妻昭氏だ。
「いや、私はそういうのは全然、気にしないから。関係ないから。ある意味で、動きやすいというか・・・。
政府じゃないけど、党改革でいろんなこともできるというか・・・。うん」
目を泳がせながらそう語る長妻氏。「更迭」は寝耳に水だった。厚労相交代が明らかになった後、
首相補佐官として官邸入りするとの噂も流れたが、それも結局潰れ、筆頭副幹事長へと左遷されることになった。
長妻氏は動揺していた。
民主党政権の人気閣僚の一人だったはずの長妻氏を、いともたやすく切り捨てた男。
それが、仙谷由人官房長官である。
長妻氏がなぜ飛ばされたのか、それは後述しよう。いずれにせよ、9月17日に発足した
改造内閣において、菅首相は「何一つ」決めてはいない。大臣・副大臣・政務官の3役、
別の人間に占領されていた。手足は糸に縛り付けられ、自由に動かすこともままならない。
ではその糸を、裏で傀儡師のごとく操っている者は誰なのか―それこそが、仙谷氏その人である。
魔物が巣くうという権力の中枢は、これまで数多の「怪物」を生み出してきた。
権力の旨味を一度味わうと、容易にはその危険な誘惑から逃れられない。
もとより、必死で己の地位を守り通した菅首相も、その虜となった一人である。
しかし、菅首相は気がつくと、単なる使い走りレベルの存在に成り下がっていた。
すぐ身近な場所で、怪物・小沢に匹敵する新たな「大妖怪」が誕生していたのだ。
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