W杯南アフリカ大会が間近に迫り、ふがいない日本代表の戦いに落胆しつつも、本大会での
「番狂わせ」にいちるの望みをつなぐファンも多い。そうした中、
「浦和サポーター差別発言か Jリーグが調査」(産経5月19日付)という小さな記事が掲載された。
J1仙台対浦和(15日)の試合後、浦和サポーターの一部が仙台の外国籍選手に対し
「差別発言」したとし、Jリーグは調査して厳しい処罰の可能性を示唆したというのだ。
日本サッカー協会の犬飼基昭会長も、徹底調査のうえ、厳しい態度で臨むとの報道もある。
この「差別発言」の対象となった選手名はどの新聞でも触れられていないが、在日朝鮮人で
北朝鮮代表の梁勇基(リャン・ヨンギ)選手であることは容易に想像がつく。
各紙とも不確定な段階では匿名としたのか、朝鮮半島緊張の折、
日本国内での不要な摩擦を避けようというのか。
スポーツにおけるやじに目くじらを立てる必要はないという意見もあるだろう。
しかし、朝鮮籍であることで誹謗(ひぼう)されたとすれば、新聞はそのことを正面から
取り上げてもらいたい。世界から非難され孤立する国家の国籍だからといって、
日本に生まれ育ったJリーガーの選手が中傷されてよいはずがない。
実はこうした差別発言は、日本より欧州で深刻だ。
「アフリカに帰れ」などという叫びと脅しが、皮肉にも混交性の象徴であるサッカー場で
共鳴現象を起こしている。06年、当時バルセロナのエースでカメルーン出身のエトーが
人種差別のやじにさらされ、試合途中にピッチを去ろうとした事件は有名だ。
流入する多くの移民が、欧州文化の独自性や純粋性を脅(おびや)かしていると考える人々に、
排外意識が広がっているのだ。(
>>2-以降に続くです)
http://sankei.jp.msn.com/sports/soccer/100529/scr1005290747002-n1.htm (
>>1の続きです)
ただ、国際サッカー連盟(FIFA)は人種や民族に基づく差別的言動の排除に積極的だ。
とりわけ南アでの開催決定後はこの問題に徹底して取り組み、サポーターも含めて、
関係者の差別的言動にはその所属クラブにも厳しい罰則を規定している。
だから、FIFA傘下のJリーグも同じ態度を取っているのだ。
南アフリカという人種隔離の歴史をもつ国での大会目前であるだけに、
新聞が今回の事件の背景も含めしっかりと取材し、日本のスポーツ界に問題提起をするなら、
代表チームより先に、日本は世界のサッカーファミリーの仲間入りができる。
【プロフィル】黒田勇
くろだ・いさむ 昭和26年大阪市出身。
京都大学大学院教育学研究科修了。平成11年関西大教授。昨年10月から現職(おはり)