自民党の若林正俊元農水相の「二重投票」問題は議会制民主主義の根幹を否定する前代未聞の不祥事だ。
ただ、与野党とも若林氏の参院議員辞職で幕引きを図ろうとしている。過去に同じ行為がなかったか、
全議員を対象にした徹底調査に極めて消極的。議員一人ひとりの自浄能力が厳しく問われそうだ。
「自分の席は死角になると思っていた」。若林氏は問題が発覚した1日、自民党の参院幹部への
事情聴取にこう釈明したという。実際、若林氏は3月31日の参院本会議で、隣席の
青木幹雄前参院議員会長の投票ボタンを代わりに押し、二重投票は10回に及んだ。
仮に確信犯だとすれば、「今回が初めて。魔が差した」との言い訳は通らない。
今回の問題は、マスコミ関係者から民主党に証拠写真が持ち込まれて発覚。民主党は1日、
直ちに若林氏に対する懲罰動議を提出した。その裏で民主党の輿石東、自民党の
尾辻秀久両参院議員会長が同日、ひそかに会談し、早期に事態を収拾させることを確認した。
青木氏は参院自民党の重鎮で、夏の参院選で改選を迎える。民主党にとって自民党の大失態は
格好の攻撃材料となるはずだったが、同党の平田健二参院国対委員長は2日の記者会見で、
若林氏や他の議員の調査について「必要ない。この一件はこれで終わり」と否定した。
こうした中、自民党関係者は「民主党も同じことをしていたとのうわさを聞いたことがある」と指摘。
ある民主党参院議員も「わが党の二重投票の可能性は完全に否定できない」と漏らす。
「衆院のカーボンコピー」などとやゆされた参院が独自性発揮のための取り組みとして、
押しボタン方式を導入したのは1998年。当時は「牛歩」による野党の採決引き延ばしを防ぐ狙いもあった。
投票からおおむね30分で賛否が参院のホームページに公表されるため、地元の有権者などから、
メールで感想が送られることもしばしばあるという。投票行動が直ちに有権者の視線にさらされ、
それをごまかすために二重投票が行われていたとすれば、「言語道断」(関係者)と言わざるを得ない。
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2010040200842