内戦下のソマリアの治安は悪化の一途をたどり、現地の人道支援活動にも影響を与えている。
医療支援の「国境なき医師団」は08年4月に外国人スタッフが国外に退避し、隣国ケニアから電話で
現地人スタッフに指示して支援を継続している。「最後の外国人医師」としてソマリアで活動した一人に
「国境なき医師団・日本」副会長で外科医の黒崎伸子医師(53)がいた。
黒崎医師は外国人スタッフ退避までの約3週間、首都モガディシオ近郊の病院で活動した。患者の6割以上
が子供や女性。銃撃戦のたびに40〜50人の市民が運び込まれた。「患者の重傷度がどんどんひどくなり、
内戦の激化を肌で感じた」。避難民キャンプなど民間人がいる場所も攻撃の対象になってきたという。
近年の人道支援の現場では、ソマリアに限らず反政府勢力などによる支援活動の妨害や、支援関係者を
対象にした誘拐や攻撃が相次ぐ。黒崎医師も現地で「薬品が空港に到着しながら病院に運べず、
医療行為が停滞した」苦い経験を味わった。
08年1月には、医師団のスタッフ3人が移動中に爆発事件に巻き込まれ死亡した。黒崎医師は
「NGO(非政府組織)関係者を対象にすれば国際社会の関心が集まるため、攻撃対象になる危険が
高まってきた」という。
約20年に及ぶ内戦に伴い、社会基盤だけでなく若者の教育など人的基盤も崩壊状態だ。黒崎医師は
「内戦が終わって選挙ができたとしても国家として成立するかどうか。生命の安全を確保する支援とともに、
人々が希望を感じられるような長期的な視点での支援も求められている」と話した。
[毎日新聞]2010年2月17日
http://mainichi.jp/select/world/news/20100217ddm007030023000c.html