「人と接しないことで、自分は自分を守ってきた。でも、労働組合に入ってみて、それが正解でないことが
この1年間で分かりました」
昨年、労働組合の組織率が34年ぶりに上昇に転じた。厚生労働省がその調査結果を公表してから間も
ない12月、東京都内で若者が企画した働くことを話し合うイベントで、一昨年末に契約途中で雇い止めに
遭って失職した元派遣労働者の男性(37)は、1年間を振り返り、少し上気した顔でそう言った。今回の
労組の組織率反転は、非正規雇用労働者の組織化が進んだことが要因の一つだ。「正社員クラブ」と
皮肉られ、メンバーのことだけを考えてきた労組が変わりつつある証しでもある。労組は彼が感じた
ような、小さな思いの積み重ねを大事にし、社会的なきずなを強める役割を果たしてほしい。
彼が4年間働いた自動車工場を雇い止めにされたことは、住んでいた寮を追い出されることも同時に
意味した。行き詰まり、インターネットで探した個人加盟の労働組合に初めて助けを求めた。彼にとって
は大きな決断だった。派遣で働いている時、仕事も覚え、正社員と同じかそれ以上の働きをした自負は
ある。しかし、職場の朝礼で製造過程の改善などを提案すると、「派遣なんだから控えめにしなよ」と
言われた。景気の悪化で社員のボーナスが減額された時は、「派遣さんよりはましだから」と心ない
ことを言われた。男性は「まるで身分制度です。誰ともかかわらないことが自分を守ることだと思い
込んでいた」と話した。
労組がメンバーのことだけしか考えていないころ、働く環境はグローバル化や市場原理主義の
波に洗われた。利益、効率最優先の旗の下、労働者派遣の原則自由化など働き方の規制緩和
が進められた。労組はそれらの政策に反対の声を上げた。しかし、組織率が低下する中でその声
は軽んじられ、雇用環境の劣化に労働者側から歯止めをかける社会的規制の力は弱まった。その
結果、労働者の3人に1人が非正規となり、正社員も過労死・過労自殺が過去最悪レベルで推移
するような長時間過重労働の常態化、残業代不払いの名ばかり管理職の拡大などを許した。
記事:毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20100113k0000m070137000c.html (次へ続く)