【ニューヨーク=松尾理也】「理想的な生徒」「とても素直な子供」。デルタ機爆破テロ未遂事件で拘束
されているナイジェリア国籍のウマル・ファルーク・アブドルムタラブ容疑者(23)について、周囲の
見方は一致している。著名な銀行家を父に持ち、なに不自由なく育った同容疑者がなぜテロリストに転落
したのか、周囲がいちように首をかしげる一方で、専門家は「テロリストはむしろ、富裕層から生まれる
場合が多い」と今回の犯人像が決して例外ではないと受け止めている。
ロイター通信などによると、著名銀行家を父に持つアブドルムタラブ容疑者は、中等教育をナイジェリア
西方に位置するトーゴの首都ロメで受けた。入学したのは、上流階級のアフリカ人が集まる英国式国際学校
(ブリティッシュ・インターナショナル・スクール)。英国式のカリキュラムをもとに、冷房の効いた教室
でエリート教育を受けるための学校だった。
アブドルムタラブ容疑者に同校で歴史を教えた英国人教師、マイケル・リマーさんは「彼とは険悪な雰囲気
の会話を交わしたことがない」とした上で、「熱心で聡明で、とても礼儀正しく、教師にとって理想の人物
だった」と述べ、逮捕にとまどいを隠さなかった。
一方で「こうした富裕層こそがテロリストを生み出す土壌となりやすい」と指摘する声もある。
テロ研究を専門とする宮坂直史防衛大教授は「今回の容疑者の人物像に驚きはない」と言う。
同教授によると、テロリストの多くが十分な教育を受け、富裕な環境の出身であることは、
複数の研究や調査によってすでに定説となっている。
2001年の米中枢同時テロや05年のロンドン同時テロでも、高学歴の実行犯が目立った。
貧困ではなく、むしろ豊かさの中で多量の情報にさらされ、社会の格差や矛盾に敏感に
なることこそがテロに結びつくという構図だ。だが宮坂教授は、環境だけがテロリストを生むの
ではなく、「理想と現実の食い違いに耐えられないといった特殊な個人的資質」もまた、重要な
役割を果たしているとみる。
そうした側面も、アブドルムタラブ容疑者に顕著だ。イスラム教への過激な傾倒は学生時代から
芽生えていた。(略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091228-00000567-san-int