>>170 翌日何の気もなく委員会室へはいると、黒板一杯ぐらいな大きな字で、脱税総理とかいてある。
おれの顔を見てみんなわあと笑った。おれは馬鹿馬鹿しいから、申告漏れしちゃ可笑しいかと聞いた。
すると議員の一人が、しかし九億は過ぎるぞな、もし、と云った。
九億脱税しようが三十億脱税しようがおれの銭でおれが脱税するのに文句があるもんかと、
さっさと委員会を済まして控所へ帰って来た。十分立って次の委員会室へ出ると一つ脱税九億なり。但し笑うべからず。と黒板にかいてある。
さっきは別に腹も立たなかったが今度は癪に障った。冗談も度を過ごせばいたずらだ。
焼餅の黒焦のようなもので誰も賞め手はない。
野党はこの呼吸が分からないからどこまで押して行っても構わないと云う了見だろう。
一時間あるくと見物する町もないような狭い永田町に住んで、外に何にも芸がないから、脱税事件を日露戦争のように触れちらかすんだろう。憐れな奴等だ。
新人の時から、こんなに教育されるから、いやにひねっこびた、植木鉢の楓みたような小人が出来るんだ。
無邪気ならいっしょに笑ってもいいが、こりゃなんだ。野党の癖に乙に毒気を持ってる。
おれはだまって、脱税を消して、こんないたずらが面白いか、卑怯な冗談だ。
君等は卑怯と云う意味を知ってるか、と云ったら、自分がした事を笑われて怒るのが卑怯じゃろうがな、もしと答えた奴がある。
やな奴だ。わざわざ北海道から、こんな奴らと審議しに来たのかと思ったら情なくなった。余計な減らず口を利かないで審議しろと云って、委員会を始めてしまった。
それから次の委員会へ出たら脱税をすると減らず口が利きたくなるものなりと書いてある。