京都教育大学の集団での準強姦(ごうかん)事件で、女子学生が被害届を取り下げ示談が成立し、京都
地検は男子学生6人を処分保留で釈放した。だが問題は解決していない。
私は精神科医として性暴力被害者と接することが多いが、深刻な内容でも警察に相談した人はわずか
で、加害者が処罰された例はほとんどない。被害者が加害者と面識があり、特に同じ集団に所属し、指導
や世話、養育を受ける場合、その傾向は強い。事件が公になった時に、推測で被害者の落ち度が責められ
たり、誹謗(ひぼう)中傷されるなど、二次的被害(セカンドレイプ)を負う可能性も高くなる。
今回の事件で、女子学生の母親が警察に相談したのは勇気がいることだったと思う。自分の娘が複数
の男性から性被害を受けたと宣伝したい人間がどこにいるだろう。被害者が事件を訴えようとしても「恥
をさらす」として家族から止められ、心理的な溝ができやすいことは、小林美佳さんの「性犯罪被害にあ
うということ」や、大阪府知事セクハラ事件被害者の手記「知事のセクハラ 私の闘い」などにもよく描
かれている。
母親が娘の痛みを受けとめ、行動を起こした事実、そして警察が捜査を行い送検した事実は、被害者の
心理的回復に大きく役立つはずである。大学も批判はあるが、少なくとも事件をもみ消さず、調査し、男
子学生に処分を行ったことは評価できる。
地検は被害者の処罰感情が緩んでおり、起訴は不必要と判断したようだが、刑事裁判は社会がその行為
を容認するかどうかを法に照らして判断するものであり、処罰感情を満たすためのものではないはずだ。
一見被害者に配慮した判断のようだが、結局は被害者に処罰の判断と責任をすべて負わせていないだろうか。
そして、男子学生たちは刑事罰を逃れても、自分たちのしたことから逃れられるわけではない。
>>2以降につづく
▽新潟日報7月17日版
http://www.42ch.net/UploaderSmall/source/1247837483.JPG ※依頼者さんによる書きお越しです
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1247840244/82 >>1のつづき
実名で報道されたこともあり、社会の反響はすさまじかった。それが男子学生の所属する体育会系4ク
ラブの無期限活動停止、顧問と監督の解任という過剰とも思われる対応につながった。事件に関係のな
い、お世話になった先生や級友、部活の仲間にまで「恥」をかかせ「迷惑」をかけてしまったことに、被
害者は恐怖と「加害者意識」を覚えたのではないか。
また同じ大学の仲間を「犯罪者」にして将来を奪わないでくれと願う関係者に囲まれ、被害者は孤立
し、自分の決断の重さに途方に暮れたのではないか。教育界では「懲罰ではなく配慮を」「人に迷惑をか
けない」という規範が強い。コンパでの一気飲みは集団の圧力によるが、示談にも集団の圧力がなかった
だろうか。
今後は、性暴力被害者が直後から安心して相談でき、告訴する時のために(決めるには時間が必要で
ある)証拠保全もできる24時間対応の被害者の保護・回復支援機関の設置や、被害者にとって過酷では
ない公判のあり方を考えていく必要がある。被害者が声を上げられる社会こそが類似の犯罪を防ぐからで
ある。
今回の事件は残念ながら氷山の一角である。潜在する多くの被害者が勇気づけられるような対応を、大
学も、社会も、そして男子学生たちも、していってほしい。(一橋大教授・文化精神医学:宮地尚子)
筆者 (みやじ・なおこ) 兵庫県出身。1986年京都府立医大卒。
−おわり−