汚染米の不正転売問題をめぐって先月、農水省の太田誠一大臣、
白須敏朗農水事務次官が辞任した(肩書はいずれも当時)。ともに事実上の更迭とされた。
農政事務所は業者への立ち入り調査が不十分で、不正転売を見抜けなかった。
白須次官は定例会見で「責任は一義的には企業にある。
農水省に責任があると今の段階では考えていない」と言った。
この役所は40年、基本的に変わっていないと思った。
現在の五島市などで大きな被害を出したカネミ油症事件は1968年10月、明るみに出た。
しかし、その年の2月、「前兆」となる事件が起きていた。
カネミ倉庫(北九州市)製造の「ダーク油」を添加した
配合飼料を食べた鶏40万羽が変死した、
「ダーク油事件」と呼ばれるものだ。この大量変死も原因はPCB(ポリ塩化ビフェニール)とされた。
この時、調査した農水省の役人は人が口にする食用油の安全性に目を向けず、
厚生省(当時)への連絡を怠った。ダーク油の鑑定もなおざりだった。
その結果、人への被害が拡大した。
民事裁判で、裁判所からそう指摘されても農水省は責任を否定した。
「ダーク油事件で担当者に対応ミスなんてない。厚生省に通報することを求められても無理だ」
ああ、お役所。この人たちの頭にあるのは、上の人間の機嫌を損ねないことだけで、
国民にはさっぱり目は向かないのだろう。当時、そう思った。
今回の太田氏らの辞任劇も選挙間近がいわれていなければどうなっていたことだろう。
五島市などには、いまなおカネミ油症の被害に苦しむ人たちがいる。
40年たった今も、カネミ倉庫を相手取った裁判が起こされる。
変わっていないのは、農水省だけでなく、この国そのものではないか。
<長崎支局長・前田岳郁(たけふみ)>
http://mainichi.jp/area/nagasaki/news/20081006ddlk42070337000c.html