国立がんセンター手術室、磁気で手元狂う恐れあり“引退”
国立がんセンター中央病院(東京)が、巨費を投じて2005年に設置した最新鋭の手術室が
ほとんど使われず、実施された手術は3年間で10件に満たないことが分かった。
磁気共鳴画像(MRI)装置などを備え、「手術中に体内の状態を確認できる」のが利点の
はずだったが、装置の近くではメスが磁気で引っ張られて手元が狂う恐れがあり、代替器具が
高額といった欠陥が露呈した。使い勝手が悪いこの手術室は、検査室に格下げされる見込みだ。
この手術室は、体内を鮮明に映し出すことができるMRIやコンピューター断層撮影法(CT)装置
などを備え、「MRX手術室」と呼ばれる。国内で初めて導入された。通常の手術室の2,5倍の
広さがあり、厚生労働省の産官学共同プロジェクトの一環で05年夏、同病院9階に完成した。
費用は10億円以上だが、機器メーカーなどの協力で、国側の負担は5億円弱だった。
当初は週2、3例の手術を行うはずだった。だが、MRI装置の近くでは、メスなど金属の器具が
磁気で引っ張られる恐れがあり、思わぬトラブルを招きかねない。金属の影響でMRI画像が
乱れることもある。
特殊素材の器具導入を検討したが、メスがすぐ切れなくなり、特注すると数千万円かかる。
患者が横向き姿勢になる肺がん手術では、体がMRI装置に入らないことも発覚した。
これまでに行われたのは、手指の腫瘍(しゅよう)を切除する手術など。患者が多い消化器がんや
肺がんなどの手術は「MRIの必要性は高くない」(同病院医師)と、実施されていない。MRI装置は、
使わなくても磁場が発生し、通常の手術室としての使用も難しい。
土屋了介院長は「当面は検査室として使い、将来は手術に活用したい」と話す。だが院内からは、
既に「負の遺産」との声も上がっている。
読売新聞 2008年2月15日03時03分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080214-OYT1T00787.htm