「皆さんと家族はさぞ肩身の狭い思いをしてきたのでしょう」。厚生労働省職員を前にした就任
あいさつで涙を浮かべ、言葉をつまらせた。10数秒間沈黙が続き、「力を合わせ難局を乗り
切りましょう」と絞り出した。
古巣に戻るのはほぼ10年ぶり。かつては冷静沈着で、人前で涙を見せるタイプではなかった。
涙の裏には、不祥事が相次ぐ厚労省を立て直すという悲壮な決意がにじむ。旧厚生省では
福祉や年金畑を歩んだ。転機は1997年。小泉純一郎厚相の下で介護保険法成立に尽力し、
内閣官房に。その後内閣府次官となり、小泉首相の下で経済財政諮問会議を支えた。
今春には、民間シンクタンクに天下って役人生活を終えたはずが、公的年金の記録漏れ問題
が勃発する。1年後輩の辻哲夫次官の更迭が固まるが、官邸の眼鏡にかなう後任が省内で
見つからない。「思いがけない要請」(江利川氏)の背景には、厚労省に対する厳しい目がある。
好きな言葉は縁尋機妙(えんじんきみょう)。仏教語で縁が縁を呼んで幸福を招くという意味だ。
思わぬ縁で2官庁の次官に。新たな縁が最後は「うれし泣き」につながるか。
■江利川毅(えりかわたけし)・新厚生労働次官
写真:
http://www.aa-nusd.jp/erikawakosedaijinkanbosingi.jpg 略歴:
1947年埼玉県生まれ、60歳 東大法学部卒
1970年 厚生省入省 1988年 大臣官房審議官
1998年 内閣官房首席内閣参事官 2001年 内閣府大臣官房長
2004年 内閣府事務次官 2007年4月 日興フィナンシャル・インテリジェンス理事長
2007年8月 厚生労働省事務次官
日経新聞07.09.03朝刊3面より。