★国内 この1年/「美しい国」に見えたか
「美しい国」の一年が暮れようとしている。しかし、看板とは裏腹に
目の当たりにしたのは「美しからざる光景」ばかりだった。
そんな思いを抱く国民は多いだろう。
その象徴が、「時代の寵児(ちょうじ)」ともてはやされた二人の転落だった。
一人はIT企業を率いて巨万の富を築いたが、実は粉飾決算などによる
株価つり上げがもたらしたものだった。もう一人は「もの言う株主」として
急成長したファンドの代表で、こちらはインサイダー取引が問われた。
いずれも裁判中だが、手品もどきのマネーゲームを「規制社会に
風穴をあける行動」と受け止めた時代の空気にこそ、危うさがひそんでいた
というべきだろう。
バブル崩壊後の長い停滞と閉塞感がもたらしたともいえるが、人々が礼
賛した背景に「豊かさからの転落」の不安と焦燥があることを見逃すべきではない。
景気は軽々と「いざなぎ」を超えて、戦後最長を更新中だが、多くの国民に実感がない。
大企業が史上空前の利益を生む一方で、非正規雇用が増大し、働き続けても
貧しさから抜け出せないワーキングプアの存在が社会問題化しつつある。
中小企業、地方との格差も広がった。医療費の負担増など高齢層にも不安がつのる。
どう富の配分をするのか。五年半に及んだ小泉政権に代わって登場した安倍内閣に
託された課題だが、初の戦後生まれの首相が目指す方向がみえない。郵政造反組の復党や
タウンミーティングのやらせ問題は、小泉時代の後始末ではあるが、首相の言葉は上滑り気味だ。
道路特定財源の一般財源化の玉虫色決着にしても、閣僚を含めた相次ぐスキャンダルによる
辞任劇にしても、火消しに精一杯という印象しか与えない。
対中、対韓関係の改善で順調に滑り出しながら、急速に支持率が落ちているのは発信力の
弱さが原因だろう。政治は言葉である。この国が抱える多くの課題に、どう取り組むのか、
説得力のある明確なメッセージが要る。(続く)
神戸新聞
http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/0000204675.shtml 続きは
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