◇ヒトに最も身近…天職?
首から顔写真入りの身分証明書を下げた犬を園児たちが取り巻いた。
「先生、触ってもいいですかー」。昨年12月、犬山市の市立羽黒保育園(若山明美園長、112人)。
4歳児約30人が、腹ばいになった大型犬の頭や腹に順番に触れていく。大はしゃぎする子もいれば、
恐る恐る指先で触れる子も。遊戯室は次第に和やかな空気に包まれた。
犬山市が職員ならぬ“職犬”として委嘱している犬山動物病院(太田亟慈院長)のラブラドルレトリ
バー「レイ」(雌6歳)。「パトラ」(雌11歳)とともに市内の保育園13園と老人福祉施設2カ所、障害児
施設1カ所の計16カ所を年間50回以上訪問している。
同市が職犬を採用したのは3年前。石田芳弘市長が「犬がいると役場の堅い雰囲気が和らぐ」と
セラピー犬の導入を発案、全国で唯一、市名に「犬」がつく同市のPRも兼ねて委嘱が実現した。
訪問先では、人に癒やしを与えるため無抵抗で寝そべるほか、スタッフの背中に飛び乗ったり、投げ
たボールを口でキャッチするなどの芸もこなす。出勤前はシャンプーや耳掃除、ツメ切りなどのケアを
行い、伝染病予防のためのワクチン接種も欠かさない。
同病院の井立由紀子獣医(32)は「住宅事情や両親が共働きのため犬が飼えない子には、犬に親し
む練習になる。高齢者には、共通の話題ができたり、若いスタッフとの会話のきっかけになる」と効果に
期待する。個人主義の猫と比較して、集団主義の犬は人との接触を喜ぶのも「癒やし」につながるという。
1986年5月から「人と動物の絆(きずな)」を柱に動物介在活動を獣医師らに呼びかけ、今年3月まで
に延べ4万645頭の犬の訪問活動を進めている「日本動物病院福祉協会」(東京)の担当者は「犬は
人間に最も身近な動物。肩書や年齢、貧富に関係がないため、孤独感や疎外感から解放し、ストレスを
減らす効果がある」と説明する。
保育園での「癒やし」の時間は約1時間でおひらき。窓際に詰め寄った園児たちはモミジのような手を
はち切れんばかりに振り、レイを見送った。「また遊ぼうねー」
毎日新聞 2006年1月11日
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/aichi/news/20060111ddlk23040095000c.html