あまり注目されなかったが、中国の胡錦濤(こきんとう)国家主席は、
9月3日の演説で気になることを言っている。例の「抗日戦勝60周年
記念」の演説だ。
胡氏は「抗日戦争の主役が国民党軍、脇役が共産党軍」という新しい
歴史解釈を述べ、さらに続けた。
「日本が台湾を侵略占拠していた50年間、台湾同胞は絶えず反抗し、
65万人が犠牲となった」
65万人−−毎年1万2000人づつ台湾の人を殺した計算になるのだが。
大江志乃夫著「日本植民地探訪」(新潮選書)は、初期の「台湾征服
戦争」による台湾側の死者を1万7000人、その後の「匪賊討伐」などで
1万1946人(死刑を含む)と推定している。また、先住民の反乱「霧社
(むしゃ)事件」では、644人が死亡したという。
だが、植民統治を通じた犠牲者の総数は見あたらない。まだ研究が
十分に進んでいない。
65万について、台湾の知人は「学校で習った記憶はない」という。台湾の
公式数字ではなさそうだ。だが胡主席の公式発言だから、少なくとも中国では
65万が定説となったに違いない。
数字だけではない。「大陸は抗日戦争。台湾は抗日闘争。共に日本と
戦った」という論理にも意味がある。
かつて日本の「皇民」だった台湾の人々(本省人)は、一貫して植民統治
と戦っていたというのだ。「抗日」史観で大陸と台湾は結びついているのだから、
台湾独立はありえない。
「高砂族の霊を返せ」とタイヤル族の民族衣装で靖国神社に乗り込んで
きた台湾の女性がいた。女優で立法委員(国会議員)の高金素梅(こうきん
そばい)さんだ。(中略)
日本の植民統治に謝罪を求める台湾の運動は、胡演説の歴史認識と裏表だ。
素梅さんは、母は先住民族だが、父は安徽(あんき)省籍の漢民族で、
心情的には中国に近いという。素梅さんはこれから北京の民族大学に
留学する。中国の少数民族理論を仕入れて戻ってきたら、台湾でも65万説
が広がるのだろうか。
ソース(毎日新聞・早い話が、論説委員・金子秀敏氏)
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20050929k0000e070070000c.html