薬害史上初めて、官僚個人が刑事責任を問われた薬害エイズ事件で、業務上過失
致死罪に問われた厚生省(現厚生労働省)の元生物製剤課長・松村明仁被告(63)の
控訴審判決が25日、東京高裁(河辺義正裁判長)で言い渡される。
1審・東京地裁は、2人の被害者のうち1人についてだけ、松村被告が、官僚として取
るべき措置を怠った「不作為の過失」を認定し、禁固1年、執行猶予2年とした。検察・
弁護側双方が控訴したが、1審判断は見直されるのか――。
罪に問われたのは、1985年5〜6月に帝京大病院でエイズウイルスに汚染された
非加熱血液製剤の投与を受けた血友病患者(帝京大ルート)と、86年4月に大阪府内
の病院で旧ミドリ十字(現・三菱ウェルファーマ)の非加熱製剤を投与された肝臓病患者
(ミドリ十字ルート)が、感染、死亡した2つの事件。
1審判決は、エイズの危険性が高いと認識できた時期を、安全な加熱製剤が承認され
た「85年末ごろ」と認定。非加熱製剤の投与時期が、それより前の帝京大ルートについ
ては無罪、それより後のミドリ十字ルートは有罪とした。
控訴審では、危険性認識の時期が最大の争点となった。1審判決は、「帝京大ルート
で非加熱製剤が投与された85年5〜6月当時、国内の研究者の間では、エイズの危険
性について不明な点が多々あった」と判断。これに対し、検察側は「米国の報告例など
で高い危険性が認識でき、安全なクリオ製剤に切り替えるべきだった」と反論した。
逆に、1審判決が「危険性の認識は相当高まっていた」としたミドリ十字ルートについて
は、弁護側は「刑事責任を左右するほど認識は高まっていなかった」と主張している。
松村被告に非加熱製剤の販売を中止したり回収したりする権限・義務があったかどうか
も争点。1審判決は「生物製剤の使用に伴う危害を防ぐため、不要不急の投与を控えさせ
るよう配慮を尽くす注意義務があった」と指摘したが、弁護側は「販売の中止や回収を義
務付ける法的根拠はない」などと反論している。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20050324i515.htm