【社会】「家に帰りたくない」 助け求め誘拐?された女児、結局児童相談所が一時保護★2

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 「植木義和さんですね」
汗が背筋を静かにつたう。俺は馬鹿だがこうなるのがわからなかったほど馬鹿じゃない。
「・・・はい」
唾が上手く飲み込めない。なにか泥でも詰まってるみたいだ。
警官たちは俺の挙動をひとつも見逃すまいと鷹のような目でこちらを見ている。
その中にはありありと軽蔑と怒りの色が見て取れる。まあ、そうだろう。
俺は今更言い訳なんかするつもりもないし、その資格も無い。
多分今頃はあの子のところにも同じ目をした連中が向かっているころだろう。
俺らに親切にしてくれたあの親子には悪いことをした。
楽しく遊んでるところにこんな物々しい連中が取り囲むようにしてるかと思うと
なんだかいたたまれなくなる。だが、なんだかほっとしてしまった。
これでもう逃げなくてすむ。
あの子の願いも最後に叶えてやれた。
ろくでなしでいままで人に迷惑ばかりかけていたが、
この年でようやく人様の役に立つことができた。
あとはきっとだれかがあの子を救い出してくれるだろう。そうでなきゃ、あんまりじゃないか。

手首に冷たい感触が触れたかと思うと、どこか滑稽なカチンという間の抜けた音がした。
警察がなにか言っているが聞きなれない言葉ばかりでよくわからない。
わかったのは読み上げた時間ぐらいだ。とりあえず抵抗せずについていけば良いだろう。
沖縄の抜けるような青い空にうっすらと雲が流れ、ちりちりと熱い南の島の日差しを遮った。
あったかいって言うよりは暑いね、と沖縄に着いたときのあの子のはしゃいだ笑顔が瞼を掠める。
ほんのすこしだけ、鼻の奥が熱くなった。
今、あの子は泣いているだろうか。